2026年9月16日水曜日

メインクーンという猫とボール

メインクーンという猫とボール

古い木造アパートの二階、南向きの窓辺に、その巨大な猫は寝そべっていた。

名前はレオ。メインクーンという種類の猫で、体は普通の猫の一・五倍はある。ふさふさとした尻尾は、まるで狐のように太く長い。飼い主の佐伯さんは、この猫を保護猫の譲渡会で引き取ってから、もう三年になる。

その日の午後、佐伯さんは掃除中にクローゼットの奥から、古いテニスボールを見つけた。子供の頃に使っていたもので、色あせた黄緑色の毛羽が、あちこち擦り切れている。捨てようかと思ったが、ふと気まぐれで、床に転がしてみた。

コロン、コロン。

その音に、レオの耳がぴくりと動いた。それまで微動だにしなかった巨体が、ゆっくりと頭をもたげる。琥珀色の瞳が、床を転がっていくボールを追いかけていた。

佐伯さんは思わず笑ってしまった。「レオ、興味あるの?」

返事の代わりに、レオはのそりと立ち上がった。普段は威厳たっぷりに歩くこの猫が、今は明らかに何かを狙う顔つきになっている。腰を落とし、耳を前に向け、じっとボールの行方を見つめる。

佐伯さんがもう一度、軽くボールを転がした。今度は少し勢いをつけて。

その瞬間、レオが動いた。大きな体からは想像できないほどしなやかに、床を蹴って飛び出す。前足でボールを押さえ込み、そのまま横に転がりながらじゃれつく。爪を出さず、肉球だけでそっと叩く仕草は、意外なほど繊細だった。

ボールは部屋の隅、本棚の下に転がり込んでしまった。レオは狭い隙間に顔を突っ込み、前足を伸ばして必死に掻き出そうとする。太い尻尾だけが、部屋の真ん中でゆらゆらと揺れていた。

「そんなところまで追いかけて」

佐伯さんはしゃがみ込み、本棚の下からボールを取り出してやった。差し出すと、レオはひょいと顔を上げ、まるで催促するような目で佐伯さんを見つめる。

「もう一回?」

問いかけると、レオは小さく「ンー」と鳴いた。返事のつもりなのかもしれない。

それから小一時間、二人は同じ遊びを繰り返した。転がす、追いかける、捕まえる、また転がす。レオは何度も同じ動きに全力で挑み、そのたびに満足そうに喉を鳴らした。大きな体を丸めてボールを抱え込む姿は、まるで小さな子猫のようだった。

やがて日が傾き、部屋の中がオレンジ色に染まる頃、レオはようやく遊びに満足したのか、ボールを前足の間に挟んだまま、床にごろりと寝転がった。荒い息をつきながらも、その表情はどこか満ち足りているように見える。

佐伯さんはその隣に座り、大きな体をそっと撫でた。ふわふわの被毛の下から、規則正しい呼吸が伝わってくる。

「気に入ったみたいだね、そのボール」

レオは薄目を開けて一瞬こちらを見たが、すぐにまた瞼を閉じた。古いテニスボールは、いつのまにか彼のお気に入りのおもちゃになっていた。

窓の外では、夕焼けが空をゆっくりと染めていく。部屋の中には、大きな猫の寝息と、小さなボールが転がった名残の静けさだけが残っていた。


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