2026年9月18日金曜日
バス停とメインクーンという猫
夕暮れどきのバス停に、一匹の大きな猫がちょこんと座っていた。
毛足の長い、堂々とした体つき。耳の先にはふさふさとした飾り毛があり、尻尾は太く長く、まるで狐のようだった。メインクーンという種類の猫らしいと、通りかかった人が誰かに話しているのを聞いたことがある。
バス停のベンチの端に、いつも同じ時間になるとその猫は現れた。誰かを待っているようにも見えたし、ただそこが心地よい場所だから座っているだけのようにも見えた。
ある日、仕事帰りの女性がそのバス停でバスを待っていた。一日の疲れがどっと肩にのしかかるような、そんな日だった。ため息をつきながらベンチに腰を下ろすと、隣にはあの大きな猫がいた。
「今日も来てたんだね」
声をかけると、猫はゆっくりと顔を上げてこちらを見た。金色がかった瞳が、街灯の光を受けてきらりと光る。逃げる様子もなく、むしろ少しだけ体を寄せてきたようにも感じた。
女性はそっと手を伸ばし、猫の背中を撫でた。ふわふわとした毛の感触が、強張っていた心をゆるめてくれるようだった。猫は目を細め、小さく喉を鳴らした。
それから女性は、バスを待つ数分間だけ、その猫と過ごすのが日課になった。特別なことは何もない。ただ隣に座り、時々撫で、時々何も言わずにバスが来るのを待つ。それだけのことが、彼女にとってはその日一番安らげる時間になっていった。
「あなたは、誰かを待ってるの? それとも、ただここが好きなだけ?」
問いかけても、猫はもちろん答えない。ただじっと遠くを見つめ、風に吹かれる尻尾の毛をゆらしているだけだった。
季節が変わり、バス停の風景も少しずつ移り変わっていく。それでも、あの猫はいつもそこにいた。まるでこの場所そのものが、猫の居場所であるかのように。
女性はいつしか思うようになった。もしかしたらこの猫にとっても、ここは特別な時間なのかもしれない、と。誰かとすれ違い、誰かに撫でられ、また誰かを見送る。バス停という何気ない場所で、小さな出会いと別れが繰り返されている。
バスが到着し、女性は立ち上がる。
「またね」
そう声をかけると、猫はゆっくりと瞬きをした。それはまるで、「またおいで」と言っているかのようだった。
窓越しに見えるバス停には、変わらずその大きな猫が座っている。今日もまた、誰かのための特別な時間を、静かに紡いでいるのだろう。
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