2026年9月18日金曜日

ガガイモとマンチカンという猫

ガガイモとマンチカンという猫

古い書店の裏手に、小さな空き地があった。誰も手入れをしないその場所には、ガガイモの蔬が絡み合うように茂り、夏の終わりになると、薄紫の星形の花をひっそりと咲かせていた。

その空き地の主のような顔をしているのが、脚の短いマンチカンだった。名前は誰も知らない。書店の店主だけが、時々店の隅に置いた皿にミルクを注いでやっていた。

猫はいつも、ガガイモの蔓の下に体を丸めて座っていた。花が咲くと、その甘い香りに誘われるように、蝶や小さな虫が集まってくる。猫は動くものを目で追いながらも、決して手を出そうとはしなかった。まるで、この場所の静けさを壊したくないとでもいうように。

ある日、風が少し強く吹いた午後、ガガイモの実がひとつ、はじけて白い綿毛を宙に散らした。それは光を受けてきらきらと舞い、猫の鼻先をかすめて空き地の向こうへと流れていった。猫は首をかしげ、短い脚で立ち上がると、綿毛を追うように二、三歩だけ歩いた。けれど、すぐに立ち止まり、また元の場所に戻って丸くなった。

追いかけるよりも、見送ることを選んだのだろう。

書店の窓越しにその様子を眺めていた店主は、古い本のページをめくりながら、ふと思った。ガガイモの種が風に乗ってどこか遠くへ根を張るように、この猫もまた、いつかこの空き地を離れて、どこか別の場所で新しい居場所を見つけるのかもしれない、と。

けれど今日のところは、猫はまだこの場所にいる。薄紫の花と、白い綿毛と、静かな夏の終わりの光の中で。


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