2026年9月16日水曜日

エノコログサとマンチカン

エノコログサとマンチカン

草むらの脇に、エノコログサが群れて風に揺れていた。誰もその名前を知らなくても、犬の尾に似たふわふわの穂は、道行く人の足を止める小さな魔法を持っていた。

マンチカンのミルは、短い足でその草むらの前に座り込んでいた。穂先がゆらゆらと動くたび、瞳がまるく開き、耳がぴくりと動く。追いかけたい。でも、飛びつくには少し勇気が足りない。そんな迷いを抱えたまま、ミルはじっと穂先を見つめていた。

風が吹くと、エノコログサはいっせいに頭を垂れ、また持ち上げる。まるで誰かに合図を送っているようだった。ミルはとうとう前足をそっと伸ばし、穂先にちょんと触れた。ふわり、と柔らかい感触が肉球に伝わる。驚いたのか、ミルは飛び退いて、また草むらから距離を取った。

それでも視線は逸らさない。しばらくすると、また少しずつ近づいていく。触れて、驚いて、離れて、また近づく。その繰り返しは、まるで小さなダンスのようだった。

夕方の光が草の穂に橙色を落とし始めても、ミルはまだそこにいた。短い足を投げ出して、ただエノコログサの揺れを眺めている。誰に急かされることもなく、誰かと競うこともなく、ただその時間だけがそこにあった。

やがて夕暮れの風が少し強くなり、エノコログサ全体が大きく波打った。ミルは一瞬びくりとしたが、すぐにまた穏やかな顔に戻り、前足をしまって座り直した。

草の穂と、丸い体の小さな猫。ただそれだけの光景が、道を通りかかった誰かの心に、小さな温かさを残していった。


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