田んぼの縁に、オモダカの葉が涼やかな三角の影を落としていた。水面から伸びるその葉は、まるで小さな矛のように整い、風が渡るたびにさらさらと音を立てる。
短い足のマンチカンは、その田んぼのあぜ道をゆっくりと歩いていた。歩幅は小さいが、足取りに迷いはない。まるでこの道を何十回も歩いたことがあるかのように、水路の縁ぎりぎりを、慣れた様子で進んでいく。
ふと、オモダカの葉陰に何かが動いた気がして、猫は足を止めた。丸い瞳が、じっと水面を見つめる。小さな水すましが一匹、葉のあいだをすいすいと泳いでいくのが見えた。猫は少し首をかしげ、それを目で追いかけた。追いかけたところで捕まえられるわけでもないのに、その動きだけで満足そうだった。
やがて日が傾き、田んぼの水面がオレンジ色に染まっていく。オモダカの白い花が、夕陽を浴びてほんのりと桃色に見えた。猫はそのそばにぺたりと座り込み、しばらく風の匂いを嗅いでいた。
誰に見られているわけでもない、誰かに褒められるわけでもない。ただ、水の匂いと葉のざわめきと、夕暮れの光。それだけがそこにあった。
マンチカンは小さくあくびをして、また短い足でとぼとぼと歩き始めた。オモダカの葉が、見送るようにゆらりと揺れた。
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