2026年9月17日木曜日
オミナエシとマンチカンという猫
里山の斜面に、黄色い小花が霧のように群れていた。オミナエシ――秋の七草のひとつだというその花は、風が吹くたびに小さく頭を揺らし、甘いような、少し青臭いような匂いを漂わせていた。
その花畑のふちに、一匹のマンチカンがちょこんと座っていた。短い脚を体の下にたたみ、丸い背中を陽だまりに向けている。名前はまだない。近所の人たちからは「畑の猫」と呼ばれていた。
マンチカンは花の匂いが好きだった。鼻先を近づけては、くしゃみをこらえるように顔をしかめ、それでもまた匂いを嗅ぎに行く。何度も同じことを繰り返すので、そばを通りかかった老婆はいつも笑ってしまう。
「今日もオミナエシと遊んでいるのかい」
老婆が声をかけると、マンチカンは短い脚で立ち上がり、とことこと歩み寄ってきた。頭を老婆の足にこすりつけ、また花畑のほうへ戻っていく。その様子はまるで、花たちに何かを報告しに行っているようだった。
夕方になると、オミナエシの黄色は夕陽の橙色に溶けて、境目がわからなくなる。マンチカンはその中にちょこんと座り、耳だけをぴくりと動かしながら、遠くで鳴く鳥の声に耳を澄ませていた。
誰も急かさない、誰にも急かされない。ただ花と猫と、傾いていく光だけがそこにあった。
やがて日が沈みきる頃、マンチカンは短い脚をふんばって、ゆっくりと家路についた。振り返ると、オミナエシの群れが夜風に揺れて、まるで見送ってくれているようだった。
明日もきっと、同じ場所で同じ匂いを嗅ぐのだろう。それだけで十分だと、その小さな体は知っているようだった。
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