2026年9月18日金曜日

メインクーンという猫と鏡

メインクーンという猫と鏡

夕暮れの窓辺で、古い姿見が静かに部屋の空気を映していた。

メインクーンのハルは、その鏡の前で足を止めるのが日課だった。大きな体を丸めて座り込み、鏡に映る自分をじっと見つめる。琥珀色の瞳と、ふさふさとした尻尾。鏡の中のもう一匹の猫は、いつも同じ仕草でハルを見返してくる。

「お前は誰なんだ」

ハルは声には出さないけれど、そう問いかけているような顔をしていた。前足をそっと持ち上げ、ガラスの表面に触れる。冷たい感触が肉球に伝わり、鏡の中の猫も同じように前足を上げた。

この家に来たばかりの頃、ハルは鏡の中の猫を敵だと思っていた。毛を逆立て、低く唸り、飛びかかったこともある。だが何度挑んでも、そこには冷たいガラスがあるだけで、相手の匂いも息づかいもしなかった。

季節が巡り、ハルは大人になった。今ではもう威嚇することはない。ただ静かに、鏡の中の自分を眺めている。それは敵でも仲間でもなく、もう一人の自分だと、いつからか気づいたのかもしれない。

夕陽が部屋に差し込むと、鏡の中のハルの毛並みも茜色に染まった。窓の外では鳥が鳴き、遠くで誰かの自転車のベルが響く。ハルはゆっくりと目を細め、鏡から視線を外すと、大きなあくびをひとつして、日だまりの中で丸くなった。

鏡の中の猫も、同じように丸くなって眠りについた。


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