古い日本家屋の縁側に、大きなメインクーンが寝そべっていた。夏の名残を惜しむような、けだるい昼下がりのことだった。
庭には背の高い蒲(がま)の穂が並び、そのそばの小さな池には、赤とんぼが一匹、羽を休めるように止まっていた。
猫は薄目を開けて、その赤い小さな影をじっと見つめている。長い尻尾の先だけが、ゆらり、ゆらりと揺れていた。
とんぼが飛び立つと、猫の瞳孔がすっと丸く広がる。空中で弧を描くその軌跡を、まるで見えない糸をたどるように、首だけを動かして追いかけた。
しばらくして、とんぼはまた池のほとりの葦(あし)の葉に止まった。猫はそれを確かめると、ふう、と小さく息を吐き、また目を細めてしまう。追いかける気は、どうやらないらしい。
縁側の板は、日に温められて心地よい。猫の大きな体の下で、木がわずかに軋む音がする。
風が吹くと、庭の草がさざめき、とんぼの羽が陽の光を受けてきらりと光った。その光を、猫の金色の瞳がもう一度だけ捉えて——そして、ゆっくりと瞼を閉じた。
もう、何もかも見なくていいというように。
縁側には、猫の寝息だけが、静かに続いていた。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
PR
コータのAmazonページへ
よろしければ、
のぞいてみてください
0 件のコメント:
コメントを投稿