2026年9月28日月曜日

癒される秋の草花に露が光る朝とメインクーンという猫

癒される秋の草花に露が光る朝とメインクーンという猫

 十月の終わりが近づく朝は、空気の底に冷たさが沈んでいる。窓を開けると、澄んだ冷気がすっと部屋に入ってきて、頬のあたりをやさしくなでていった。

 まだ太陽は低く、庭の隅々までは光が届いていない。それでも、東の空だけは薄い金色に染まりはじめていた。

 縁側に出ると、先客がいた。

 メインクーンの「ヤマト」だ。

 大きな体を丸めて、彼は縁側の端にどっしりと座っている。ふさふさの首まわりの毛は、朝の光を受けて、ところどころ銀色にきらめいていた。耳の先の長い飾り毛が、風もないのにふるふると小さく揺れている。

 ヤマトは私に気づくと、ちらりとこちらを見て、低い声で「ぐる」と短く鳴いた。おはよう、という意味だと私は勝手に思っている。

「おはよう。早いね」

 そう返して、私は彼の隣に腰をおろした。木の板が、ひんやりと冷たい。

 庭に目をやって、思わず息をのんだ。

 草花という草花に、露が宿っていた。

 萩の細い枝には、小さな水の玉が数珠のようにつながっている。ススキの穂先は、ひとつひとつの銀の毛の先に光をためて、ほんのり白く霞んで見えた。足もとのリンドウは、深い青の花びらに露をのせたまま、まだ朝を迎えきれずに、半分だけ眠っているようだった。

 蜘蛛が張った小さな巣までが、夜のあいだに水の粒をまとい、透きとおった首飾りのように光っている。

 朝日が、ゆっくりと庭の端から端へ、その光を伸ばしていく。

 光が届いた場所から、露はひとつずつ、小さな宝石になっていった。赤、青、金、そして名づけようのない淡い緑。同じ露でも、見る角度がほんの少し変わるだけで、色が入れかわる。

 ヤマトが、すっと立ち上がった。

 そして、ゆったりとした足どりで縁側から庭へ降りていく。大きな肉球が、しっとりと濡れた土の上に、ひとつずつ丸い跡を残した。

 彼が歩くたびに、草の葉がやわらかく揺れて、ぽろり、ぽろりと露が落ちる。落ちた雫は、光を抱いたまま地面に吸いこまれていった。

 ヤマトは、コスモスの前で足を止めた。

 薄桃色の花びらに、朝日を含んだ露がひと粒、宝物のようにのっている。彼はそっと鼻先を近づけて、そのにおいをたしかめた。ひげにも露がついて、きらりと光る。

 その横顔があまりにも穏やかで、私はしばらくのあいだ、自分が息をしていることさえ忘れていた。

 遠くで、鳥が鳴いた。

 どこかの家で、雨戸の開く音がする。町がゆっくりと目を覚ましていく、そのはじまりの気配。けれど、この庭だけは、まだ夜と朝のあいだに漂っているようだった。

 ヤマトは、ふと私のほうを振り返った。

 琥珀色の大きな目が、朝日を映して金色に燃えている。彼はまるで「ほら、見てごらん」とでも言うように、ゆっくりとまばたきをした。

 猫のゆっくりしたまばたきは、信頼の証なのだと、いつか本で読んだことがある。

 私も、同じようにゆっくりとまばたきを返した。

 すると、ヤマトは満足そうに喉を鳴らしながら、また草花のあいだを歩きはじめた。ごろごろという低い音が、静かな庭に、やさしい波紋のように広がっていく。

 日々の忙しさのなかで、私たちはいつのまにか、朝という時間を通り過ぎるだけのものにしてしまっていた。

 けれど、たった数分、縁側に座って庭を眺めるだけで、心の奥にたまっていたものが、露のようにすうっと透きとおっていく。

 やがて太陽が屋根の上まで昇り、庭じゅうに光があふれた。

 露は少しずつ小さくなって、ひとつ、またひとつと、空へ帰っていく。宝石のようだった庭が、いつもの見慣れた庭に戻っていく。

 それでも、私は知っている。

 明日の朝もまた、草花はきっと、露をまとってくれる。そしてヤマトは、あの大きな背中で、静かに朝を迎えにいくのだろう。

 ヤマトが縁側に戻ってきて、私のひざのそばに、どさりと体を預けた。ずしりと重くて、あたたかい。

 しっとりと湿った毛のにおいと、秋の草のにおいが、ふわりと混ざりあう。

 私は彼の背中をそっとなでながら、もう一度、光る庭に目をやった。

 秋の朝は、こんなにも静かで、こんなにもやさしい。

 そんなことを、露と猫が、そっと教えてくれた朝だった。


ここまで読んでくれて、ありがとうございます

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