2026年9月22日火曜日
癒される秋夜の窓辺に映る月明かりと黒猫
窓辺に置かれた古い揺り椅子。そこに丸くなっているのは、黒猫のクロだった。
夜が深くなるほどに、部屋の明かりを一つずつ落としていくのが、この家に住む老婦人の習慣だった。最後の灯りが消えると、代わりに窓から差し込むのは、澄みきった秋の月光だ。
「今夜も、きれいな月だねえ」
老婦人がそっと声をかけると、クロは片方の耳だけをぴくりと動かした。答える代わりに、細く開いた目で窓の外を見つめている。
窓ガラスには、丸く満ちた月が映り込んでいた。その光は、クロの黒い毛並みの上をすべるように滑り、輪郭だけをやわらかく浮かび上がらせている。まるで闇の中に、銀色の縁取りだけが浮いているようだった。
風が変わったのか、庭の柿の木の葉が一枚、音もなく落ちた。その気配に、クロの尻尾がゆっくりと揺れる。まるで月に合わせて時を数えているかのように。
老婦人は湯呑みを両手で包み、湯気の向こうにクロの姿を眺めた。昼間はあれほど気まぐれで、家中を走り回っていたこの猫が、夜になるとこんなに静かになるのが、いつも不思議だった。
「あなたも、月を見ているのかしらね」
クロは答えない。ただ、月明かりに満たされた窓辺で、静かに瞳を閉じた。秋の夜気はひんやりと澄み、遠くで虫の声がひとつ、また消えていく。
時間さえも、この窓辺だけはゆっくりと流れているようだった。老婦人はそっと灯りを消し、月と黒猫だけが残る夜の静けさに、しばらく身をゆだねていた。
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