2026年9月22日火曜日

癒される軒先の雨だれの音とメインクーンという猫


秋の雨は、いつもより優しい音を立てる。

古い日本家屋の軒先には、瓦の先から滴が落ちる場所が決まっていて、そこにだけ小さな水たまりができていた。ぽつん、ぽつん、と一定の間隔を空けて落ちてくる雨だれの音は、まるで誰かが静かに時を刻んでいるようだった。

その軒先の縁側に、一匹の大きな猫が寝そべっていた。メインクーンだった。ふさふさとした尻尾を身体に巻きつけ、耳だけがときどきぴくりと動く。雨だれの音のする方向に、耳がまず気づき、それから半分だけ開いた目がゆっくりと同じ方向を追う。

「雨、飽きないの」

家の奥から声をかけても、猫は動かなかった。まるで、この音を聞くために生まれてきたような顔をしていた。

軒先の外では、庭の紫陽花の葉が雨に打たれて、少しずつ首を垂れていく。灰色の空から降る雨は強くはなく、ただ静かに、地面を潤すためだけに降っているようだった。その向こうに見える竹垂は、風もないのに雨の重さで先端が揺れていた。

メインクーンは前足を伸ばし、爪を軒先の木の縁に軽く引っかけた。爪の先が古い木材の木目をなぞる。それだけの動きが、まるで雨音に合わせた合図のように見えた。

しばらくして、猫は身体を起こし、縁側の端まで歩いていった。雨だれの落ちる場所を、じっと見つめる。ぽつん、と一滴。水面に小さな輪が広がる。猫の目が、その輪を追いかけて丸くなる。

もう一滴。今度は前足がそっと持ち上がったが、水には触れなかった。触れる気はなく、ただその動きを確かめたかったのだろう。輪が消えるまで見届けて、それから何事もなかったように、また元の場所へ戻っていった。

家の中の時計が、控えめに時を告げる。だが、その音よりも雨だれの音の方が、この家の時間を支配しているようだった。

猫はふたたび身体を丸めた。今度は目を閉じ、耳だけを起きたままにしておく。半分眠りながら、半分は雨の音を聞いている。そんな器用な休み方を、この猫は知っていた。

雨脚が少し強くなった。軒先からの滴が、間隔を狭めて落ちてくる。ぽつん、ぽつん、ぽつん。まるで拍子が速くなる音楽のように。猫の尻尾の先が、その拍子に合わせてわずかに動いた気がした。

縁側に腰を下ろし、しばらく猫と並んで雨を眺めた。何を話す必要もなかった。ただ雨だれの音と、猫の呼吸と、湿った庭の匂いだけがそこにあった。

やがて雨は少しずつ弱まり、軒先の滴も間隔を空けていった。最後の一滴が落ちる頃には、猫はすっかり寝入っていた。丸くなった大きな身体が、静かに上下する。

雨上がりの匂いが、軒先まで届いてくる。それでもメインクーンは眠り続けていた。まるで、雨だれの音が子守唄だったかのように。


ここまで読んでくれて、ありがとうございます

PR
コータのAmazonページへ

よろしければ、
のぞいてみてください


0 件のコメント:

コメントを投稿