2026年9月20日日曜日
癒される秋夜の星空と冷たい空気とメインクーン
夜の十時を過ぎると、街はすっかり静かになる。
私は薄手のカーディガンを羽織って、ベランダに続く窓をそっと開けた。とたんに、ひんやりとした空気が部屋の中に滑り込んでくる。昼間はまだ半袖でも過ごせるくらいだったのに、日が沈んでからの空気は、もう完全に秋のそれだった。肌にふれる冷たさが、どこか懐かしく、そして心地よい。
「にゃあ」
足元で声がした。見下ろすと、我が家のメインクーンが、大きな体をゆっくりと伸ばしながら私を見上げていた。夏の間はクーラーの効いた部屋の隅で丸くなっていることが多かった彼だが、この冷たい空気の気配を感じ取ったのか、今夜は妙に機嫌がよさそうだった。
「一緒に見る?」
そう声をかけると、まるで言葉がわかったかのように、彼はするりとベランダへ出ていった。フサフサとした尻尾が、暗がりの中でゆらゆらと揺れている。
ベランダに置いた小さな椅子に腰かけて、私は空を見上げた。
秋の夜空は、夏よりもずっと澄んでいる。湿気が抜けた分だけ、星がくっきりと近くに見える気がした。オリオン座がゆっくりと東の空から顔を出し始めている。都会の空でも、これだけの星が見えるのかと、毎年この季節になるたびに驚かされる。
メインクーンは私の膝の上に飛び乗ると、大きな体をどっしりと預けてきた。彼の毛は驚くほど分厚く、まるで小さな毛布を抱いているようだった。冷たい風が吹くたびに、その毛がふわりと揺れて、私の手をくすぐる。
「あったかいね、君は」
そう呟くと、彼はゴロゴロと喉を鳴らし始めた。その振動が膝から伝わってきて、なんだか自分まで温かくなっていくような気がした。
しばらく無言のまま、星空を眺めていた。流れ星でも見えないかと目を凝らしてみたけれど、今夜はそれらしきものは現れなかった。それでも構わなかった。ただ、この澄んだ空気と、膝の上の重みと、遠くから聞こえる虫の声に耳を傾けているだけで、じゅうぶんだった。
昼間の忙しさや、頭の中でぐるぐると回っていた考え事が、少しずつ薄れていく。冷たい空気を吸い込むたびに、体の中がすっきりと洗われていくような感覚があった。
ふと、メインクーンが顔を上げて、じっと空を見つめているのに気づいた。猫に星が見えているのかどうかは分からない。けれど、その横顔はどこか物思いにふけっているようにも見えて、思わず笑ってしまった。
「君も、こういう夜が好きなんだね」
答えの代わりに、彼はまた喉を鳴らした。
しばらくして、体が冷えてきたのを感じ、そろそろ中に入ろうかと腰を上げた。すると、メインクーンは名残惜しそうに一度だけ星空を振り返り、それから私の後についてゆっくりと部屋の中へと戻っていった。
暖かい部屋に入った瞬間、ほっとため息が漏れる。けれど、さっきまでの冷たい空気と星々の輝きは、しばらく体のどこかに残り続けているような気がした。
秋の夜は、こうして静かに、そして確かに深まっていく。
窓の外では、まだあの星たちが瞬いているのだろう。膝の上でまるくなったメインクーンの温もりを感じながら、私はまた明日も、この季節の夜を楽しみに待つのだった。
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