2026年9月19日土曜日
癒される秋のススキ野原と黒猫
夕暮れが近づく頃、私はいつもの散歩道を少し外れて、河川敷まで足を伸ばした。
理由は特にない。ただ、秋の風がどこか懐かしい匂いを運んできて、いつもと違う道を歩きたくなっただけだった。
土手を登りきると、視界いっぱいに銀色の海が広がっていた。ススキだ。
風が吹くたびに、無数の穂がさわさわと揺れて、夕陽を受けて金色にも銀色にも見える。まるで誰かがそっと光をすくって撒いたような、静かで柔らかな輝きだった。
しばらくその景色に見とれていると、足元で何かが動いた気配がした。
見下ろすと、一匹の黒猫がこちらをじっと見上げている。
艶やかな黒い毛並みに、夕陽が反射して、輪郭だけがオレンジ色に縁取られていた。まるでススキの銀色と対になるように、その黒が際立って美しい。
「こんにちは」
思わず声をかけると、猫は少し首をかしげただけで、逃げようとはしなかった。人に慣れているのか、それとも単に興味を持たれただけなのか。
私はそっとその場に腰を下ろした。猫も少し距離を置いて、同じようにススキの野原を眺め始める。
不思議なものだった。言葉を交わすわけでもないのに、隣に誰か——いや、何かがいるというだけで、心の奥がすっとほどけていくような感覚があった。
風が吹く。ススキが揺れる。猫の尻尾がゆらりと動く。
それだけの時間が、驚くほど贅沢に感じられた。
日々の忙しさの中で、私たちはいつの間にか「立ち止まること」を忘れてしまう。予定を詰め込み、次のことを考え、今この瞬間をすり抜けさせてしまう。
でも、この場所では違った。ススキの音と、猫の呼吸と、沈んでいく夕陽だけが、確かにそこにあった。
どれくらいそうしていただろうか。気づけば空は茜色から紫へと変わり始めていた。
「そろそろ帰るね」
私が立ち上がると、黒猫はまた少し首をかしげ、それから何事もなかったかのようにススキの陰へと消えていった。
名前も知らない、たった一度きりの出会い。それでも、あの銀色の野原と黒い影は、しばらく私の心に居座り続けた。
秋が深まるこの季節、忙しい毎日にほんの少し疲れを感じたら、こんな景色を探しに行ってみるのもいいかもしれない。
きっと、思いがけない「癒し」が、そっと寄り添ってくれるはずだから。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
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