2026年9月23日水曜日
癒される秋雨に濡れる石段の神社と黒猫
石段に落ちる雨音が、いつもより優しく聞こえる夕方だった。
神社の鳥居をくぐると、苔むした石段が雨に濡れて黒く光っている。灰色の空から降る雨は、激しくはなく、ただしとしとと、木々の葉先を揺らして落ちてくる。傘を差した参拝客の姿もなく、境内は静けさに包まれていた。
石段の途中、一匹の黒猫が丸くなっていた。屋根のわずかな軒下に身を寄せて、雨をやり過ごしているらしい。黒く濡れた毛並みが、雨粒を弾くたびに小さく光る。
近づいても、黒猫は逃げなかった。ただ、ゆっくりと目を開けて、こちらを見た。琥珀色の瞳が、雨に濡れた石段の色を映している。
「こんな日に、ここにいたんだね」
声をかけると、黒猫は小さく尾を動かした。返事のつもりなのか、それとも単なる気まぐれなのか。石段の隙間から生えた小さな苔が、雨に洗われて鮮やかな緑を見せている。秋の雨は、夏の雨よりも冷たく、そのぶん澄んでいる気がした。
社殿の屋根から、雨垂れがぽつり、ぽつりと落ちる音がする。その音に合わせるように、黒猫はまた目を閉じた。急ぐ必要もない、待つべき誰かもいない。ただ雨が上がるのを、静かに待っているようだった。
しばらくその場に立って、雨に濡れる石段と黒猫を眺めていた。時間の流れが、いつもよりゆっくりに感じられる。木々の匂い、湿った土の匂い、かすかに香る線香の匂いが混じり合って、境内全体を包んでいた。
やがて雨が少しだけ弱まり、雲の切れ間から柔らかい光が差し込んだ。黒猫はそれに気づいたのか、ゆっくりと体を起こし、伸びをした。
「もう少しだけ、ここにいようか」
黒猫は答えなかったけれど、また丸くなって、雨の音に耳を澄ませているようだった。石段を濡らす雨は、まだ続いている。けれど、それすらも、どこか心地よい時間の一部になっていた。
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