2026年9月24日木曜日
癒される秋夜の天の川と黒猫
日が沈んでからずいぶん時間が経った村外れの丘。街灯のひとつもないその場所には、夜になると決まって一匹の黒猫がやってくる。
名前はまだ誰も知らない。近くの家の縁側にときどき姿を見せるが、飼われているわけでもなく、野良というにはどこか凛とした佇まいをしている。黒猫はいつも同じ場所に座る。丘の一番高いところにある、古い切り株の上だ。
その夜も、空気は乾いて澄んでいた。虫の声はもう夏のような賑やかさを失い、代わりにコオロギの澄んだ声がぽつりぽつりと丘に響いている。黒猫は切り株にすっと上がり、尾を丸く体に沿わせて、じっと上を見上げた。
雲のない夜だった。月はまだ出ていない。だからこそ、空の奥からうっすらと白い帯が浮き上がって見えた。天の川だ。都会では決して見ることのできない、無数の星の粒が集まってできた光の道。黒猫の瞳にその光がゆっくりと映り込み、金色にきらめいた。
風が丘を渡っていく。すすきの穂が揺れ、さらさらという音が黒猫の耳をかすかに震わせた。だが黒猫は動かない。まるで、この夜の静けさそのものになろうとしているかのように。
しばらくすると、一筋の光が空を横切った。流れ星だ。黒猫の目がその光を追って、ほんの一瞬だけ大きく見開かれる。またすぐに、いつものように穏やかな表情に戻ったけれど、その一瞬だけ、猫の中にも何か特別な感情が生まれたのかもしれない。
丘の下から、かすかに家々の灯りが見える。誰かの夕食の匂い、テレビの音、笑い声。人の暮らしの温かさが、遠くからそっと届いてくる。黒猫はその灯りを一度だけ見下ろし、それからまた天の川へと視線を戻した。
秋の夜は、夏よりも静かで、冬よりも優しい。ちょうどいい涼しさが、黒猫の毛をふわりと揉んでいく。切り株の上で、黒猫はゆっくりと目を細めた。眠っているのか、それとも星を数えているのか。それは誰にもわからない。
やがて夜がさらに深まり、天の川はいっそう濃く、はっきりとその姿を見せる。無数の光の粒が、まるで川の水面のように静かに流れているように見えた。黒猫はその光を浴びながら、小さくあくびをひとつ。それから前足を揃えて顔を埋め、そのまま丘の主のように、夜そのものに溶け込んでいった。
この丘を訪れる人は少ない。けれど時折、夜更かしをした誰かがふと窓の外を見て、遠くの丘にぽつんと座る黒い影に気づくことがある。そのときだけ、なぜか心がすっと軽くなる。理由はわからないが、きっと、その黒猫が見ている天の川の光が、少しだけこちらにも届いているからなのだろう。
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