2026年7月14日火曜日
黒猫とマンゴー
夏の午後、黒猫は窓辺で眠っていた。
開いた窓から入る風はぬるく、白いカーテンをゆっくりと揺らしている。
蝉の声も、遠くを走る車の音も、今日はどこか眠そうだった。
台所から、甘い香りが漂ってきた。
黒猫は片方の目だけを開け、鼻を小さく動かした。
机の上には、見慣れない黄色い果物が置かれていた。
丸くもなく、細長くもない、不思議な形をしたマンゴーだった。
飼い主が包丁を入れると、鮮やかな橙色の実が現れた。
その色は、夏の夕焼けを小さく切り取ったように見えた。
黒猫は椅子へ飛び乗り、机の端からじっとマンゴーを見つめた。
甘い香りは気になる。
けれど、知らないものへ簡単に近づくほど、黒猫は素直ではない。
そっと前足を伸ばし、皿の近くを一度だけ触った。
冷たい皿の感触に驚き、すぐに前足を引っ込める。
飼い主が笑うと、黒猫は何もしていないような顔で窓の外を向いた。
それでも、尻尾の先だけはマンゴーのほうへ曲がっていた。
しばらくすると、マンゴーは少しずつ小さくなっていった。
黒猫は食べることなく、最後までその様子を見守っていた。
やがて皿が片づけられると、机の上には甘い香りだけが残った。
黒猫は誰もいなくなった椅子へ移り、残った香りを静かに確かめた。
窓の向こうでは、空がゆっくりと夕方の色へ変わり始めていた。
黒猫にとってマンゴーは、最後までよく分からないものだった。
けれど、その日の夏はいつもより少しだけ甘い匂いがした。
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