2026年7月22日水曜日

黒猫とかき氷

黒猫とかき氷

夏の午後、蝉の声がやけに大きく聞こえる日だった。

近所の商店街を歩いていると、古びた喫茶店の軒先に一匹の黒猫がちょこんと座っているのに気づいた。毛並みはつやつやとしていて、暑さなど気にも留めていないような、涼しい顔をしている。人が通るたびにこちらをじっと見つめてくるのだが、逃げる素振りは一切ない。どうやらこの店の看板猫らしい。

店先には小さな黒板が出ていて、そこにチョークで「かき氷はじめました」と書かれていた。夏の始まりを告げる、なんとも素朴な一文である。吸い込まれるように暖簾をくぐった。

店内はひんやりとしていて、外の熱気が嘘のようだった。カウンターの向こうから店主らしきおばあさんが「猫、見てくれた?」と笑いながら声をかけてくる。どうやらあの黒猫は「クロ」という名前で、もう十年以上この店に住み着いているそうだ。

運ばれてきたかき氷は、ふわふわの氷に手作りのシロップがたっぷりとかかっていた。ひと口食べると、きめ細かい氷が舌の上でほろりと溶けていく。市販の練乳とは一味違う、優しい甘さのミルク蜜が絶妙だった。

窓の外を見ると、クロが相変わらず同じ場所で丸くなっている。人間がかき氷で涼をとっている間、猫は毛皮を着たまま平然と夏を乗り切っているのだから、なんだか不思議な気持ちになる。

こうした昔ながらの喫茶店や甘味処は、全国の商店街にひっそりと残っていることが多い。旅先や近所の散歩で、ふと看板猫のいるお店に出会えたら、それだけでその日が少し特別なものになる気がする。

暑い夏が続くこの時期、涼を求めて出かけた先でこうした小さな発見があると、なんとも言えない幸福感を覚える。かき氷の甘さと、黒猫の涼しい顔。この二つが、今年の夏の記憶としてしばらく心に残りそうだ。


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