2026年7月19日日曜日
黒猫と瓜
夏の午後、縁側に座っていると、隣の畑から瓜の匂いがしてくる。青くさくて、少し甘くて、土の湿り気を含んだあの匂いだ。そこへふらりと現れるのが、いつも決まって同じ黒猫だった。
名前は知らない。首輪もついていないから、誰かの飼い猫というわけでもなさそうだ。ただ、この時間になると必ず現れて、瓜畑のそばの石垣に飛び乗り、日向でじっと丸くなる。私はその姿を見るのが、いつのまにか毎日の楽しみになっていた。
面白いのは、この猫が瓜には決して近づかないということだ。畑を荒らすでもなく、実をかじるでもなく、ただ少し離れたところから、まるで見張り番のようにこちらを眺めている。猫と瓜――取り合わせとしては妙だけれど、考えてみればそこには何の関係もない。関係がないからこそ、並んでいる光景がかえって印象に残るのかもしれない。
昔の人は「瓜に爪あり、爪に爪なし」などと語呂合わせをして、似て非なるものを見分ける知恵を子どもに教えたという。黒猫と瓜もまた、似ているようでまるで違う。片方は生き物で、気まぐれに動き、日陰を求めて場所を変える。もう片方は蔓に繋がれたまま、じっと太陽を浴びて甘みを蓄えていく。動くものと動かないもの、気まぐれなものと辛抱強いもの。そんな対照が、なんとなく心地よい風景を作っているような気がする。
先日、思い切って瓜をひとつ収穫してみた。ずしりと重く、まだ土のにおいが残っている。縁側に置いて眺めていると、黒猫がすっと寄ってきて、匂いを嗅ぎ、興味なさそうにまた石垣に戻っていった。ああ、やはりこの猫にとって瓜はただの景色の一部なのだな、と妙に納得してしまった。
きっと明日も、猫は同じ場所に座るのだろう。瓜もまた、蔓の先で静かに育っていくのだろう。何も変わらないようでいて、季節は少しずつ進んでいく。そんな当たり前のことを、黒猫と瓜が教えてくれた夏の一日だった。
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