2026年6月17日水曜日
黒猫と消しゴム
机の上に、小さな消しゴムがひとつ転がっていました。
それは、角が少し丸くなった白い消しゴムでした。
何度も使われて、端のほうに鉛筆の黒い跡がついています。
黒猫は、その消しゴムをじっと見つめていました。
消しゴムは、ただそこにあるだけなのに、黒猫には小さな不思議な石ころのように見えたのです。
前足でちょん、と触ってみると、消しゴムは机の上を少しだけすべりました。
黒猫は耳をぴくりと動かしました。
もう一度、ちょん。
消しゴムは、また少しだけ動きました。
机の上には、書きかけのノートがありました。
ノートには、うまく書けなかった文字がいくつか残っていました。
消しゴムは、その文字を消すために置かれていたのでしょう。
間違えたところを消して、もう一度書き直す。
それは、とても小さなことのようで、実は少しやさしいことなのかもしれません。
黒猫は、消しゴムを鼻先で軽く押しました。
ころん、と転がった消しゴムは、ノートの端で止まりました。
まるで「失敗しても大丈夫」と言っているようでした。
人は、間違えた文字を消すことができます。
でも、気持ちまで簡単に消せるわけではありません。
それでも、消しゴムが机の上にあるだけで、少しだけ安心できます。
書き直せる。
やり直せる。
もう一度、白い場所から始められる。
黒猫は、消しゴムのそばに丸くなりました。
窓の外では、夕方の光がゆっくり薄くなっていきます。
部屋の中は静かで、机の上だけがほんの少し明るく見えました。
黒猫と消しゴム。
小さな机の上にある、なんでもない組み合わせです。
けれど、その景色には、失敗を責めないやさしさがありました。
今日うまくいかなかったことも、明日になれば少しだけ書き直せるかもしれません。
黒猫は目を細めて、消しゴムの隣で静かに眠りました。
まるで、小さなやり直しを見守っているように。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
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