2026年6月4日木曜日

黒猫とカーテン

黒猫とカーテン

午後の光が、部屋の中に静かに入ってきた。

白いカーテンは、窓からの風を受けて、ゆっくり揺れている。

強い風ではない。

ただ、部屋の空気を少しだけ動かすような、やさしい風だった。

黒猫は、そのカーテンの下に座っていた。

何かを待っているようにも見えるし、ただそこにいたいだけのようにも見える。

カーテンのすそが、黒猫の背中にふわりと触れる。

黒猫は少しだけ耳を動かした。

けれど、逃げることはしなかった。

むしろ、その布のやわらかさを知っているように、目を細めた。

カーテンの向こうには、いつもの景色がある。

遠くを歩く人。

少し揺れる木の葉。

どこかへ向かう車の音。

外の世界は、今日も静かに動いている。

でも黒猫にとっては、カーテンの内側がちょうどよかった。

外が見える。

でも、外に出なくてもいい。

光は届く。

でも、まぶしすぎない。

風は入ってくる。

でも、部屋の安心は消えない。

黒猫は、カーテンの影の中で小さく丸くなった。

白い布と黒い毛並み。

その対照が、なんだか一枚の絵のように見えた。

何も特別なことは起きていない。

ただカーテンが揺れて、黒猫がそこにいるだけ。

それなのに、部屋の時間が少しだけやさしくなる。

たぶん暮らしというものは、こういう小さな場面でできている。

誰にも気づかれないような、静かな一瞬。

けれど、あとから思い出すと、なぜか心に残っている景色。

黒猫は眠った。

カーテンはまだ、ゆっくり揺れていた。

まるで黒猫の眠りを守るように、光と風のあいだで、静かに揺れていた。


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