部屋のすみっこに、
ひとつの枕が置いてありました。
白くて、少しだけくたびれていて、
毎晩だれかの頭を受け止めてきたような、
やわらかい枕でした。
その枕の前に、
黒猫がそっとやってきました。
黒猫はすぐには乗りません。
まず鼻先を近づけて、
ふんふんと匂いをたしかめます。
それから前足で、
枕のはしを小さく押しました。
枕は、ふわりと沈みました。
黒猫は少しだけ考えるように、
丸い目で枕を見つめました。
これは眠るものなのか。
それとも、
自分のために用意された小さな雲なのか。
そんなことを思っているようでした。
やがて黒猫は、
そっと枕の上に前足をのせました。
片方、もう片方。
ゆっくり体をあずけると、
枕は黒猫の重さをやさしく受け止めました。
黒猫は満足そうに、
しっぽを体の横にまるめました。
部屋の中には、
午後の光が静かに入っていました。
窓の外では、
風がカーテンを少しだけ揺らしています。
黒猫は枕の上で、
目を細めました。
人間にとって枕は、
一日の終わりに頭を預ける場所です。
でも黒猫にとっては、
世界でいちばん安心できる高台のようでした。
そこにいれば、
部屋の音も、光も、匂いも、
全部ゆっくり流れていきます。
やがて黒猫は、
小さく丸くなりました。
黒い毛並みが、
白い枕の上で静かに目立っていました。
まるで夜が、
小さな雲の上で眠っているみたいでした。
枕は何も言いません。
ただ、黒猫を沈ませすぎないように、
やわらかく支えていました。
眠る場所があるというのは、
それだけで少し救われることなのかもしれません。
黒猫はそんなことを知っているように、
すうすうと静かな寝息を立てていました。
今日も一日、
ちゃんと終わっていきます。
そして枕の上には、
小さな黒猫のぬくもりだけが、
やさしく残っていました。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
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