2026年6月4日木曜日

黒猫と枕

黒猫と枕

部屋のすみっこに、
ひとつの枕が置いてありました。

白くて、少しだけくたびれていて、
毎晩だれかの頭を受け止めてきたような、
やわらかい枕でした。

その枕の前に、
黒猫がそっとやってきました。

黒猫はすぐには乗りません。

まず鼻先を近づけて、
ふんふんと匂いをたしかめます。

それから前足で、
枕のはしを小さく押しました。

枕は、ふわりと沈みました。

黒猫は少しだけ考えるように、
丸い目で枕を見つめました。

これは眠るものなのか。

それとも、
自分のために用意された小さな雲なのか。

そんなことを思っているようでした。

やがて黒猫は、
そっと枕の上に前足をのせました。

片方、もう片方。

ゆっくり体をあずけると、
枕は黒猫の重さをやさしく受け止めました。

黒猫は満足そうに、
しっぽを体の横にまるめました。

部屋の中には、
午後の光が静かに入っていました。

窓の外では、
風がカーテンを少しだけ揺らしています。

黒猫は枕の上で、
目を細めました。

人間にとって枕は、
一日の終わりに頭を預ける場所です。

でも黒猫にとっては、
世界でいちばん安心できる高台のようでした。

そこにいれば、
部屋の音も、光も、匂いも、
全部ゆっくり流れていきます。

やがて黒猫は、
小さく丸くなりました。

黒い毛並みが、
白い枕の上で静かに目立っていました。

まるで夜が、
小さな雲の上で眠っているみたいでした。

枕は何も言いません。

ただ、黒猫を沈ませすぎないように、
やわらかく支えていました。

眠る場所があるというのは、
それだけで少し救われることなのかもしれません。

黒猫はそんなことを知っているように、
すうすうと静かな寝息を立てていました。

今日も一日、
ちゃんと終わっていきます。

そして枕の上には、
小さな黒猫のぬくもりだけが、
やさしく残っていました。


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