2026年6月21日日曜日

黒猫と田んぼ

黒猫と田んぼ

夕方の田んぼ道を、黒猫がゆっくり歩いていました。

田んぼには、水が張られていて、空の色がそのまま映っていました。
青かった空は少しずつ薄い橙色に変わり、遠くの山の形も、水の中で静かに揺れていました。

黒猫は、道の真ん中を歩くのではなく、草の生えた端っこを選ぶように進んでいました。
誰に教えられたわけでもないのに、ちゃんと自分の居場所を知っているようでした。

田んぼのあぜ道には、小さな花が咲いていました。
風が吹くたびに草が揺れて、黒猫のひげも少しだけ動きました。

遠くから、カエルの声が聞こえてきます。
車の音も、人の話し声も、ここでは少し遠く感じました。

黒猫は途中で立ち止まり、水の張った田んぼをじっと見つめました。
水面には、黒猫の小さな姿が映っていました。
けれど風が通ると、その姿はゆらゆらと形を変えてしまいます。

黒猫は、それを不思議そうに見ていました。
まるで、水の中にもう一匹の黒猫がいると思っているようでした。

しばらくすると、黒猫は前足をそっと出しました。
でも水には入らず、ただ田んぼのふちで止まりました。

その姿が、なんだかとても静かで、少しだけ物語の一場面のように見えました。

何か大きな出来事が起きるわけではありません。
黒猫が田んぼのそばを歩いているだけです。

でも、そういう景色の中にこそ、忘れていた時間があるのかもしれません。
急がなくてもいい時間。
誰かに見せるためではない時間。
ただ風が吹いて、水面が揺れて、黒猫がそこにいるだけの時間です。

やがて夕日が少し低くなり、田んぼの水が金色に光りました。
黒猫の背中にも、その光がやわらかく乗りました。

黒猫は振り返ることなく、また歩き出しました。
細いあぜ道を、静かに、ゆっくりと。

その後ろ姿を見ていると、田んぼという場所は、ただお米を育てる場所ではなく、季節や風や小さな命を映す場所なのだと思いました。

黒猫と田んぼ。
それは、とても静かな組み合わせです。

けれど、その静けさの中には、なぜか心を落ち着かせてくれるやさしさがありました。


ここまで読んでくれて、ありがとうございます

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