2026年6月4日木曜日

黒猫と公園の砂場

黒猫と公園の砂場

公園のすみっこに、
小さな砂場がありました。

昼間は子どもたちの声でにぎやかな場所も、
夕方になると、少しだけ静かになります。

すべり台の影が長くのびて、
ブランコは風にゆっくり揺れていました。

その砂場のふちに、
一匹の黒猫が座っていました。

黒猫は、砂場で遊ぶわけでもなく、
ただじっと、砂の上を見つめていました。

砂の上には、
小さなスコップのあとや、
半分だけ残った山の形がありました。

きっと少し前まで、
誰かがここで一生懸命に遊んでいたのでしょう。

黒猫は前足をそっと伸ばして、
砂に小さな足あとをつけました。

それは、誰にも気づかれないくらい、
小さな小さな足あとでした。

でも黒猫にとっては、
ここに来たしるしのようでした。

夕方の光が、
砂場をやさしく照らしていました。

砂の粒が少しだけきらきらして、
まるで小さな星が地面に落ちているようでした。

黒猫はその光を見ながら、
ゆっくりまばたきをしました。

公園には、
忘れられたおもちゃも、
風で転がった葉っぱも、
誰かの笑い声の余韻も残っています。

人が帰ったあとの公園には、
昼間とはちがう、静かな物語があります。

黒猫はその物語を、
ひとりで読んでいるようでした。

やがて空が少しずつ暗くなり、
街灯がぽつりと灯りました。

黒猫は砂場から立ち上がると、
もう一度だけ、自分の足あとを見ました。

そして何も言わずに、
公園の小道を歩いていきました。

砂場には、
小さな黒猫の足あとが残っていました。

明日になれば、
きっと子どもたちの手で消えてしまうでしょう。

でもそれでいいのだと思います。

公園の砂場は、
誰かが来て、
何かを作って、
また消えていく場所です。

黒猫の足あとも、
その中のひとつでした。

静かで、
小さくて、
少しだけやさしい、
夕方の物語でした。


ここまで読んでくれて、ありがとうございます

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