公園のすみっこに、
小さな砂場がありました。
昼間は子どもたちの声でにぎやかな場所も、
夕方になると、少しだけ静かになります。
すべり台の影が長くのびて、
ブランコは風にゆっくり揺れていました。
その砂場のふちに、
一匹の黒猫が座っていました。
黒猫は、砂場で遊ぶわけでもなく、
ただじっと、砂の上を見つめていました。
砂の上には、
小さなスコップのあとや、
半分だけ残った山の形がありました。
きっと少し前まで、
誰かがここで一生懸命に遊んでいたのでしょう。
黒猫は前足をそっと伸ばして、
砂に小さな足あとをつけました。
それは、誰にも気づかれないくらい、
小さな小さな足あとでした。
でも黒猫にとっては、
ここに来たしるしのようでした。
夕方の光が、
砂場をやさしく照らしていました。
砂の粒が少しだけきらきらして、
まるで小さな星が地面に落ちているようでした。
黒猫はその光を見ながら、
ゆっくりまばたきをしました。
公園には、
忘れられたおもちゃも、
風で転がった葉っぱも、
誰かの笑い声の余韻も残っています。
人が帰ったあとの公園には、
昼間とはちがう、静かな物語があります。
黒猫はその物語を、
ひとりで読んでいるようでした。
やがて空が少しずつ暗くなり、
街灯がぽつりと灯りました。
黒猫は砂場から立ち上がると、
もう一度だけ、自分の足あとを見ました。
そして何も言わずに、
公園の小道を歩いていきました。
砂場には、
小さな黒猫の足あとが残っていました。
明日になれば、
きっと子どもたちの手で消えてしまうでしょう。
でもそれでいいのだと思います。
公園の砂場は、
誰かが来て、
何かを作って、
また消えていく場所です。
黒猫の足あとも、
その中のひとつでした。
静かで、
小さくて、
少しだけやさしい、
夕方の物語でした。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
PR
よろしければ、
のぞいてみてください

0 件のコメント:
コメントを投稿