2026年6月25日木曜日

黒猫と木

黒猫と木
黒猫が一匹、古い木の下に座っていました。

その木は、町のはずれにある小さな公園のすみで、何年も同じ場所に立っている木でした。

春には若い葉をつけ、夏には強い日差しをやわらげ、秋には落ち葉を散らし、冬には静かに枝だけを空へ伸ばしていました。

黒猫は、その木のことをよく知っているようでした。

人が通っても、犬が吠えても、風が強く吹いても、黒猫は木の根元からあまり動きません。

まるで、その木と何か約束をしているようにも見えました。

本の中には、言葉を話す猫や、不思議な森へ案内してくれる動物がよく出てきます。

でも現実の黒猫は、何も語りません。

ただ、じっと木のそばにいるだけです。

それなのに、その姿を見ていると、何か小さな物語が始まりそうな気がします。

木は、黒猫に日陰を作っていました。

黒猫は、木の根元で丸くなりながら、ときどき薄く目を開けます。

葉のすき間からこぼれる光が、黒い毛の上に小さく揺れていました。

真っ黒に見える毛も、光が当たると少しだけ茶色や灰色を含んでいるように見えます。

何気ない景色なのに、そこだけ時間がゆっくり流れているようでした。

本を読んでいると、派手な事件よりも、こういう静かな場面が心に残ることがあります。

大きな冒険ではなく、古い木の下で眠る黒猫。

誰にも気づかれない午後の光。

風で落ちた一枚の葉。

そういう小さな描写があるだけで、物語の世界は急に深くなります。

黒猫は、木のそばで何を考えているのでしょうか。

昨日の雨のことかもしれません。

木の上を通り過ぎた鳥のことかもしれません。

それとも、ずっと昔からこの場所にあった物語を、猫だけが覚えているのかもしれません。

木は何も言わず、黒猫も何も言いません。

けれど、黙って並んでいるだけで、そこにはやさしい空気がありました。

本のページをめくるように、季節は少しずつ変わっていきます。

新しい葉が増え、花が咲き、雨が降り、落ち葉が積もり、やがてまた春が来ます。

その間も、黒猫はときどき木の下へやって来るのでしょう。

そこにいるだけで安心できる場所。

何も起こらなくても、心が少し落ち着く場所。

黒猫と木の景色には、そんな静かな本のような魅力があります。

特別な言葉がなくても、物語はそこにあります。

ただ一匹の黒猫と、一本の古い木。

それだけで、今日の午後を少しだけやさしくしてくれるのです。


ここまで読んでくれて、ありがとうございます

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