2026年6月5日金曜日

黒猫とマウス

黒猫とマウス

机の上に、ひとつのマウスが置いてありました。

その横には、読みかけの本が一冊。
ページのあいだには、しおりのかわりに小さな紙がはさんであります。

午後の光が、カーテンのすき間から静かに入ってきて、
本の文字とマウスの丸い形を、やわらかく照らしていました。

そこへ、黒猫がそっと近づいてきました。

黒猫は本には目もくれず、
まずマウスの前で立ち止まりました。

白でもなく、黒でもなく、
少しだけ使い込まれたマウス。

人間にとっては、ただの道具です。
クリックして、動かして、画面の中を進むためのもの。

でも黒猫にとっては、少し違って見えたのかもしれません。

丸くて、手のひらにおさまる大きさで、
動きそうで、動かない。

黒猫は前足を少しだけ上げて、
マウスにそっと触れました。

カチッ。

小さな音がして、
部屋の静けさが一瞬だけ揺れました。

黒猫は驚いたように耳を動かし、
それから何事もなかったような顔で座りました。

本のページは、まだ開かれたままです。
画面の中には、まだ続きが待っています。

本を読む時間と、パソコンを触る時間。
紙の上の物語と、画面の中の世界。

そのあいだに、黒猫が一匹いるだけで、
どちらも少しだけやさしいものに見えてきます。

急いで読まなくてもいい。
急いで書かなくてもいい。
急いで答えを出さなくてもいい。

黒猫は、そんなことを言うように、
マウスの横で丸くなりました。

本のそばにあるマウス。
マウスのそばにいる黒猫。

それだけの静かな午後が、
なぜか少しだけ大切な時間に思えました。


ここまで読んでくれて、ありがとうございます

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