長い夢から、ふっと浮かび上がるように目が覚めた。
天井はいつものままなのに、どこか少しだけ遠く感じる。
さっきまで確かにそこにいたはずの世界。
ホログラムのようなAI美女と交わした言葉。
そして、小さくて優しいちびっこ龍。
「……あ」
男の子は思い出す。
まだ、お礼を言っていない。
あの龍に、ちゃんと「ありがとう」を。
でも、もう戻れない。
夢の扉は、静かに閉じられてしまっていた。
あれだけ長い時間を過ごした気がするのに、
現実の世界はどうなっているのだろう。
少し不安になって、男の子はスマホを手に取る。
画面に表示された時間は、
いつもより少し遅いくらいの朝だった。
「……なんだ」
ほんの少しだけ、安心する。
夢の中だけが、あんなにも長かったのだ。
そのとき、ふと頭に浮かぶ。
「あ、カメにエサあげないと」
男の子はベッドから起き上がり、顔を洗う。
冷たい水が、現実に戻ってきたことを優しく教えてくれる。
そして、水槽の前へ。
ガラス越しに、じっとこちらを見ているカメ。
まるで「遅いよ」とでも言っているようだ。
男の子は、小さなエビのおやつを取り出して見せる。
その瞬間。
カメはゆっくりと、でも確実に動き出す。
いつもの光景。
いつもの時間。
男の子は少しだけ笑った。
まずはエビのおやつ。
それから、いつものカメのエサ。
その順番は、変わらない。
エサをあげながら、男の子はまた夢のことを思い出していた。
あの光。
あの声。
あの不思議な空気。
「……また、忘れるのかな」
夢はいつもそうだ。
大切なものほど、ゆっくりと消えていく。
でも今回は、少しだけ違う気がした。
消えてしまう前に、
少しでも残しておきたい。
男の子は思う。
「ちょっとだけ、メモしておこうかな」
全部じゃなくていい。
ほんの少しでいい。
あのAI美女が言っていたこと。
自分が感じたこと。
それが、いつか何かになる気がした。
カメは満足そうに、ゆっくりと水の中を漂っている。
現実は、静かで、やさしい。
そして男の子は、
夢と現実のあいだに、小さな橋をかけるように、
そっとスマホのメモを開いた。
消えてしまう前に、
ほんの少しだけ、未来へ残すために。
そんな朝だった。
男の子が見た夢シリーズ おわり
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