黒猫が、海を見ていた。
波の音が、ざざん、ざざんと聞こえてくる。
黒猫は砂浜の上にちょこんと座って、しっぽをゆっくり動かしていた。
まるで海と話をしているみたいだった。
海はとても大きくて、どこまでも青かった。
黒猫の小さな体とは比べものにならないくらい、大きくて広くて、少しこわいくらいだった。
それでも黒猫は逃げなかった。
ただ静かに、波が寄せては返すのを見ていた。
ときどき、波が足元の近くまでやってくる。
黒猫は少しだけ後ろに下がる。
でもまた、すぐに前を向く。
海の向こうには何があるのだろう。
黒猫はそんなことを考えているようにも見えた。
空には白い雲がゆっくり流れていた。
風が吹くと、黒猫の耳がぴくりと動いた。
遠くでカモメが鳴いた。
その声を聞いて、黒猫は少しだけ顔を上げた。
けれど、追いかけることはしなかった。
今日の黒猫は、走るよりも、海を見ていたい気分だったのかもしれない。
黒猫の毛は、太陽の光を受けて少しだけ青く光って見えた。
まっ黒なのに、海の色を少しもらったみたいだった。
波の音。
風の音。
砂の上に残る小さな足あと。
黒猫は、何も言わない。
でも、その後ろ姿を見ていると、なんだか物語が始まりそうな気がした。
もしかしたら黒猫は、誰かを待っているのかもしれない。
もしかしたら、遠いどこかへ行ってしまった友だちのことを思い出しているのかもしれない。
それとも、ただ海が好きなだけなのかもしれない。
海は、何も答えない。
ただ、いつものように波を運んでくる。
黒猫も、何も言わない。
ただ、いつものようにそこにいる。
その静かな時間が、なんだかとてもよかった。
大きな海の前にいる小さな黒猫。
それだけなのに、心の中にやさしい景色が残る。
夕方になると、海は少しずつ金色に変わっていった。
黒猫はゆっくり立ち上がり、砂浜に小さな足あとを残して歩き出した。
でも、少し進んだところで一度だけ振り返った。
波はまだ、ざざん、ざざんと鳴っていた。
まるで、またおいでと言っているみたいだった。
黒猫はしっぽを少し揺らして、それから静かに歩いていった。
海の音を、背中に連れて。
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