2026年5月10日日曜日

黒猫とカーネーション

黒猫とカーネーション

夕方の花屋さんの前に、
黒猫が一匹すわっていました。

店先には、
赤やピンクや白のカーネーションが
並んでいました。

風が吹くたびに、
花びらが小さく揺れています。

黒猫は、
花の名前を知っているわけではありません。

けれど、
その花のそばにいると、
なんとなくやさしい気持ちになるようでした。

通りを歩く人たちは、
カーネーションを手に取って、
少し照れたような顔をしていました。

誰かに渡すための花。

ありがとうを言うための花。

ふだんは口にできない気持ちを、
そっと代わりに持ってくれる花。

黒猫は、
じっとその様子を見ていました。

やがて花屋さんのおばあさんが、
少しだけ折れてしまった
小さなカーネーションを一本、
店の端に置きました。

「これは売りものにはならないね」

そう言いながらも、
おばあさんはその花を捨てませんでした。

黒猫は、
その小さなカーネーションに
鼻を近づけました。

赤い花びらは、
少し曲がっていたけれど、
夕方の光を受けて、
とてもきれいに見えました。

完璧じゃなくても、
誰かの心をあたためることはできる。

黒猫はそんなことを考えたのか、
花のそばで丸くなりました。

その姿はまるで、
小さなカーネーションを
守っているようでした。

日が暮れて、
店先の明かりがともるころ。

黒猫の隣で、
赤いカーネーションは
静かに咲いていました。

誰かに渡されなかった花にも、
ちゃんと物語はあるのだと思います。

そして黒猫は、
その物語を一番近くで聞いている、
小さな読者のようでした。


ここまで読んでくれて、ありがとうございます

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