夕方の商店街は、少しだけ眠たそうな顔をしていた。
八百屋さんの前には、売れ残ったみかんが並び、魚屋さんのシャッターは半分だけ下りている。
そのすき間を、黒猫が一匹、静かに歩いていた。
黒猫は急がない。
まるで、この商店街の時間を全部知っているように、ゆっくりと石畳の上を進んでいく。
コロッケ屋さんの前を通ると、油のにおいがふわりと鼻をくすぐった。
店のおばあさんが、黒猫に気づいて小さく笑った。
「今日も来たんか」
黒猫は返事をしない。
けれど、しっぽを少しだけ揺らした。
昔はもっと人が多かった商店街。
子どもたちの声が響いて、夕方になると買い物袋を持った人たちが行き交っていた。
今は少し静かになった。
閉まった店もある。
色あせた看板もある。
それでも、どこかあたたかい。
黒猫は、それを知っているのかもしれない。
パン屋さんの前で立ち止まり、ガラス越しに残った食パンを眺める。
文房具屋さんの前では、古いノートのにおいをかぐように鼻を近づける。
誰かの暮らしが、まだここに残っている。
誰かの思い出が、シャッターの奥で静かに息をしている。
黒猫は商店街の端まで歩くと、振り返った。
夕焼けがアーケードの屋根を赤く染めていた。
その光の中で、商店街は少しだけ昔に戻ったように見えた。
黒猫は小さく目を細める。
そしてまた、何も言わずに路地の奥へ消えていった。
明日もきっと、黒猫はこの商店街を歩く。
誰かに呼ばれるわけでもなく、何かを探しているわけでもなく。
ただ、ここに残っているぬくもりを、確かめるように。
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