古いお寺の裏には、誰もあまり気に留めない小さな空間がありました。
石段の下、少しだけ土が柔らかくなっている場所。
そこに、タヌキの親子は静かに暮らしていました。
昼間は人の足音が絶えないお寺も、夜になるとまるで別の場所のように静かになります。
風が木々を揺らす音と、遠くで鳴く虫の声だけが響く時間。
その時間になると、子ダヌキはそっと顔を出します。
「ねえ、おかあさん。人間って、どうしてあんなに忙しそうなの?」
子ダヌキは、昼間に見た人たちのことを思い出しながら聞きました。
お母さんダヌキは、少し考えてからゆっくり答えます。
「きっとね、大事なものをたくさん持っているからだよ。」
「大事なもの?」
「うん。守りたいものとか、失いたくないものとかね。」
子ダヌキは少し首をかしげました。
自分には、お母さんとこの場所があればそれでいいと思っていたからです。
夜の空気は冷たく、でもどこかやさしくて、
古いお寺はずっとそこにあり続けていました。
「じゃあ、ぼくたちは?」
子ダヌキがもう一度聞くと、
お母さんは静かに笑います。
「わたしたちも同じだよ。」
そう言って、お母さんは子ダヌキの頭を軽くなでました。
「この場所と、あなたが大事。」
それだけで、十分なんだよ、と言うように。
遠くで鐘の音が一度だけ鳴りました。
その音は、夜の空に溶けていき、
タヌキの親子の小さな暮らしを、そっと包み込むようでした。
子ダヌキは安心したように目を細めて、
また静かな寝床へ戻っていきます。
古いお寺の下には、今日も変わらない時間が流れています。
誰にも知られないまま、
それでも確かに、あたたかい毎日が続いていました。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
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