2026年5月31日日曜日

黒猫と雲

黒猫と雲
窓辺に、黒猫が座っていました。

外はよく晴れていて、
青い空の中を、白い雲がゆっくり流れていました。

黒猫は、何も言わずに、
その雲をじっと見つめていました。

まるで、雲の形が変わっていくたびに、
そこに小さな物語を見つけているようでした。

丸い雲は、ふわふわの毛糸玉に見えました。

長く伸びた雲は、
どこか遠くへ続く道のようにも見えました。

黒猫は、その道を歩いていく自分を、
少しだけ想像していたのかもしれません。

雲の上には、音のしない世界があって、
やわらかな光だけが広がっている。

そこでは、急がなくてもよくて、
誰かに呼ばれることもなくて、
ただ好きな場所で丸くなって眠れる。

そんな世界を、
黒猫は空の向こうに見ていたようでした。

部屋の中には、静かな時間が流れていました。

本のページをめくる音も、
時計の針の音も、
今日は少しだけやさしく聞こえました。

雲は、少しずつ形を変えていきます。

さっきまで毛糸玉だった雲は、
いつの間にか小さな船のようになっていました。

黒猫は、しっぽをゆっくり揺らしました。

もしかすると、
その船に乗ってみたいと思ったのかもしれません。

雲の船に乗って、
屋根の上を越えて、
町を越えて、
知らない場所まで行ってみる。

けれど、黒猫は窓辺から動きません。

遠くへ行きたい気持ちと、
この場所にいたい気持ち。

そのどちらも大切にしているように、
ただ静かに空を見上げていました。

やがて、雲は太陽の前を通りました。

部屋の光が少しやわらかくなり、
黒猫の背中にも淡い影が落ちました。

その姿は、まるで一冊の本の中に出てくる、
小さな旅人のようでした。

どこにも行かなくても、
心だけは遠くへ行ける日があります。

空を眺めるだけで、
雲の形を追いかけるだけで、
少しだけ世界が広く見える日があります。

黒猫と雲。

ただそれだけの景色なのに、
そこには静かな物語がありました。

今日も黒猫は、窓辺に座っています。

そして流れていく雲を見ながら、
誰にも聞こえない小さな夢を、
そっと空に浮かべているのかもしれません。


ここまで読んでくれて、ありがとうございます

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