2026年5月26日火曜日
黒猫と雨
雨の日になると、黒猫は窓辺に座ります。
外へ出たいわけでもなく、
雨がやむのを待っているわけでもなく、
ただ、しとしとと落ちてくる雨を見ています。
窓の向こうでは、
庭の草が小さく揺れて、
石の上には丸い雨粒が並んでいました。
黒猫は、しっぽをゆっくり動かしながら、
まるで雨の音を読んでいるようでした。
ぽつん。
ぽつん。
ざあ、ざあ。
雨には、いろいろな声があります。
屋根をたたく音。
葉っぱを濡らす音。
水たまりに小さな輪を描く音。
黒猫は、そのひとつひとつを聞きながら、
今日の世界は少し静かだと思いました。
晴れた日には、鳥が鳴きます。
風が通ります。
子どもたちの声が遠くから聞こえてきます。
でも雨の日は、
世界がそっと布をかぶったみたいに、
すべての音がやわらかくなります。
黒猫は、その静けさが嫌いではありませんでした。
濡れた道を歩く人の足音。
傘に落ちる雨の粒。
遠くで小さく通り過ぎる車の音。
どれも、いつもより少しだけ遠く聞こえます。
黒猫は窓ガラスに鼻を近づけました。
ガラスはひんやりしていて、
そこに映った黒猫の顔は、
少しだけ考えごとをしているように見えました。
雨の日は、急がなくていい日。
どこかへ行かなくてもいい日。
何かを頑張らなくてもいい日。
ただ、雨の音を聞いていればいい日。
黒猫は、そう思いました。
やがて、部屋の中にあたたかい明かりが灯りました。
窓の外はまだ灰色でしたが、
その明かりがガラスに映ると、
雨の景色も少しだけやさしく見えました。
黒猫は丸くなり、
雨音を子守歌のように聞きながら、
ゆっくり目を閉じました。
雨はまだ降っています。
けれど、その雨はもう、
さみしい音ではありませんでした。
黒猫にとって雨の日は、
世界が静かに休んでいることを教えてくれる、
小さな物語の時間なのです。
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