2026年5月24日日曜日

黒猫の島

黒猫の島

海のむこうに、黒猫だけが知っている島がありました。

その島は、地図には小さな点のようにしか描かれていません。
けれど、夕方になると、海の色が少しだけ金色に変わり、波の音がやさしくなる場所でした。

島には、古い石の階段がありました。
その階段をのぼると、小さな灯台がありました。
灯台のそばには、いつも一匹の黒猫が座っていました。

黒猫は、誰かを待っているようにも見えました。
それとも、誰も待っていないようにも見えました。

ただ、海を見ていました。

風が吹くと、黒猫のひげが少し揺れました。
遠くでカモメが鳴き、白い雲がゆっくり流れていきました。
島の家々は静かで、窓辺には小さな花が咲いていました。

この島では、時間が急ぎません。
時計の針も、波の音に合わせて進んでいるようでした。

黒猫は、朝になると港へ行きます。
漁から帰ってきた小さな船を見つめ、魚屋さんの前をゆっくり歩きます。
でも、魚をねだったりはしません。

ただ、そこにいるだけです。

昼になると、白い壁の路地を歩きます。
細い道の向こうには青い海が見えて、坂道には光がこぼれていました。
黒猫の足音は、とても小さくて、まるで島の秘密を踏まないように歩いているみたいでした。

そして夕方になると、また灯台のそばへ戻ります。

海は少しずつ色を変えていきます。
青から水色へ。
水色から金色へ。
金色から、静かな紫へ。

黒猫は、その全部を知っていました。
この島の一日が、どうやって終わっていくのかを。
そして、夜が来ても怖くないことを。

灯台に明かりがともると、黒猫の背中がほんのり照らされました。
その姿は、島を守っている小さな影のようでした。

もしかすると、この島は黒猫のものなのかもしれません。
いえ、黒猫が島を持っているのではなく、島のほうが黒猫を大切にしているのかもしれません。

風も、波も、石段も、灯台も。
みんな黒猫の歩く速さを知っているようでした。

黒猫の島には、大きな事件は起きません。
宝物が眠っているわけでも、冒険が待っているわけでもありません。

けれど、そこには静かな物語があります。

誰かに急かされず、ただ海を見ている時間。
何も言わなくても、そばにいるだけで満たされる空気。
遠くへ行かなくても、心が少し旅をしたように感じる夕暮れ。

黒猫は今日も、灯台のそばに座っています。

しっぽをゆっくり揺らしながら、海のむこうを見ています。

その瞳には、波の光が映っていました。
まるで、島じゅうのやさしい時間を、ひとりで受け止めているようでした。

もしもいつか、心が少し疲れた日に。
何も考えず、静かな場所へ行きたくなったなら。

海のむこうにある、黒猫の島を思い出したいと思います。

そこではきっと、黒猫が今日も待っています。
何も言わずに。
ただ、静かな海を見ながら。


ここまで読んでくれて、ありがとうございます

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