机の上に置いたスマホが、ふいに小さく光りました。
画面には、誰かからの知らせが届いています。
けれど黒猫は、その文字を読むわけでもなく、ただじっと見つめていました。
黒い耳が少しだけ動きます。
しっぽは、ゆっくりと右へ左へ揺れています。
人間にとってスマホは、遠くの誰かとつながる道具です。
知らない場所のことを知ったり、言葉を送ったり、写真を見たりできます。
でも黒猫にとっては、ただ光る小さな箱なのかもしれません。
音が鳴って、画面が明るくなって、指で触ると景色が変わる。
それは少しだけ、不思議な窓のようでした。
黒猫は前足をそっと伸ばして、スマホの画面に触れました。
すると画面が動きます。
人間は少し笑いました。
黒猫は、何もしていないような顔をしました。
まるで、世界の秘密をひとつ見つけたのに、知らないふりをしているみたいでした。
スマホの中には、たくさんの言葉があります。
たくさんの写真があります。
たくさんの誰かの毎日があります。
けれど、そのそばで丸くなっている黒猫の静けさには、スマホの中にはない時間が流れていました。
急がなくてもいい時間。
何かを返さなくてもいい時間。
ただそこにいてくれるだけで、少し安心できる時間。
黒猫はスマホの横で、ゆっくり目を閉じました。
画面の光は、黒い毛にやさしく反射しています。
人間はスマホを手に取ろうとして、少しだけやめました。
今は、画面の中を見るよりも、目の前の黒猫を見ていたくなったのです。
スマホは、世界とつながるためのもの。
黒猫は、今ここに戻ってくるためのもの。
そんなことを思いながら、静かな部屋の中で、黒猫とスマホは並んでいました。
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