2026年5月27日水曜日

黒猫とスマホ

黒猫とスマホ
机の上に置いたスマホが、ふいに小さく光りました。

画面には、誰かからの知らせが届いています。
けれど黒猫は、その文字を読むわけでもなく、ただじっと見つめていました。

黒い耳が少しだけ動きます。
しっぽは、ゆっくりと右へ左へ揺れています。

人間にとってスマホは、遠くの誰かとつながる道具です。
知らない場所のことを知ったり、言葉を送ったり、写真を見たりできます。

でも黒猫にとっては、ただ光る小さな箱なのかもしれません。
音が鳴って、画面が明るくなって、指で触ると景色が変わる。

それは少しだけ、不思議な窓のようでした。

黒猫は前足をそっと伸ばして、スマホの画面に触れました。
すると画面が動きます。

人間は少し笑いました。
黒猫は、何もしていないような顔をしました。

まるで、世界の秘密をひとつ見つけたのに、知らないふりをしているみたいでした。

スマホの中には、たくさんの言葉があります。
たくさんの写真があります。
たくさんの誰かの毎日があります。

けれど、そのそばで丸くなっている黒猫の静けさには、スマホの中にはない時間が流れていました。

急がなくてもいい時間。
何かを返さなくてもいい時間。
ただそこにいてくれるだけで、少し安心できる時間。

黒猫はスマホの横で、ゆっくり目を閉じました。
画面の光は、黒い毛にやさしく反射しています。

人間はスマホを手に取ろうとして、少しだけやめました。

今は、画面の中を見るよりも、目の前の黒猫を見ていたくなったのです。

スマホは、世界とつながるためのもの。
黒猫は、今ここに戻ってくるためのもの。

そんなことを思いながら、静かな部屋の中で、黒猫とスマホは並んでいました。


ここまで読んでくれて、ありがとうございます

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