2026年5月18日月曜日

ベタと黒猫

ベタと黒猫

湖の底から見上げると、
世界は少しだけ違って見える。

水面は、空と光をゆらゆら映していて、
そこに黒猫の顔が、ぼんやりと浮かんでいた。

黒猫は、何も言わない。
ただ、静かに湖の中を見つめている。

その視線の先には、
一匹の美しいベタが泳いでいた。

青、紫、白、赤、金色。
その長いヒレは、水の中で絹のように広がり、
光を受けるたびに、宝石みたいにきらめいた。

ベタは、黒猫のことを知っているのかもしれない。
黒猫もまた、ベタのことを見つけたのかもしれない。

けれど、ふたりの間には水がある。
近いようで、遠い。
触れられそうで、触れられない。

それでも不思議と、
さみしい感じはしなかった。

水面の向こうから見守る黒猫と、
水の中で静かに泳ぐベタ。

言葉もなく、鳴き声もなく、
ただ同じ光の中にいる。

そんな出会いも、きっとあるのだと思う。

近づけないからこそ、
きれいに残るものがある。

触れられないからこそ、
心の中で長く揺れ続ける景色がある。

ベタはまた、ゆっくりとヒレを広げた。

そのたびに小さな泡が生まれ、
湖の光が、少しだけ明るくなった。

黒猫の瞳も、
水面の向こうでやさしく揺れていた。

まるで、夢の中で一度だけ出会った友だちを、
忘れないように見つめているみたいに。


ここまで読んでくれて、ありがとうございます

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