湖の底から見上げると、
世界は少しだけ違って見える。
水面は、空と光をゆらゆら映していて、
そこに黒猫の顔が、ぼんやりと浮かんでいた。
黒猫は、何も言わない。
ただ、静かに湖の中を見つめている。
その視線の先には、
一匹の美しいベタが泳いでいた。
青、紫、白、赤、金色。
その長いヒレは、水の中で絹のように広がり、
光を受けるたびに、宝石みたいにきらめいた。
ベタは、黒猫のことを知っているのかもしれない。
黒猫もまた、ベタのことを見つけたのかもしれない。
けれど、ふたりの間には水がある。
近いようで、遠い。
触れられそうで、触れられない。
それでも不思議と、
さみしい感じはしなかった。
水面の向こうから見守る黒猫と、
水の中で静かに泳ぐベタ。
言葉もなく、鳴き声もなく、
ただ同じ光の中にいる。
そんな出会いも、きっとあるのだと思う。
近づけないからこそ、
きれいに残るものがある。
触れられないからこそ、
心の中で長く揺れ続ける景色がある。
ベタはまた、ゆっくりとヒレを広げた。
そのたびに小さな泡が生まれ、
湖の光が、少しだけ明るくなった。
黒猫の瞳も、
水面の向こうでやさしく揺れていた。
まるで、夢の中で一度だけ出会った友だちを、
忘れないように見つめているみたいに。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
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