夕方の町を歩いていると、
小さな踏切の前に黒猫が座っていました。
遮断機はまだ上がったままで、
線路の向こうには、少し古い本屋さんが見えます。
黒猫は、まるで誰かを待っているように、
じっと向こう側を見つめていました。
その姿があまりに静かだったので、
私は思わず足を止めてしまいました。
踏切のそばには、
風に揺れる草がありました。
遠くから、電車の音が近づいてきます。
カン、カン、カン。
遮断機がゆっくり下りると、
黒猫は少しだけ耳を動かしました。
それでも逃げるわけでもなく、
怖がるわけでもなく、
ただ落ち着いた顔でそこにいます。
やがて電車が通り過ぎました。
窓の明かりがいくつも流れていき、
その一瞬だけ、町全体が本のページみたいに見えました。
誰かの帰り道。
誰かの会話。
誰かの小さな物語。
電車の中にも、
踏切のこちら側にも、
きっといろいろな続きがあるのでしょう。
遮断機が上がると、
黒猫はゆっくり立ち上がりました。
そして、線路の向こう側へ渡っていきます。
その先にある本屋さんの前で、
黒猫は一度だけ振り返りました。
まるで、
「この先にも物語はあるよ」
と言っているようでした。
私はその後ろ姿を見送りながら、
少しだけ胸があたたかくなりました。
踏切は、こちら側と向こう側を分ける場所です。
でも同時に、
こちら側の物語と、
向こう側の物語をつなぐ場所でもあるのかもしれません。
黒猫が渡っていった先には、
どんな本が待っているのでしょう。
どんな人が、
どんなページを開いているのでしょう。
夕方の小さな踏切で見かけた黒猫は、
ただそこにいただけなのに、
一冊の本を読み終えたような余韻を残していきました。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
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