2026年5月25日月曜日
黒猫とシャボン玉
庭のすみで、黒猫が空を見上げていました。
春でも夏でもない、
少しだけ風のやさしい午後でした。
そのとき、ふわりと一つ、
シャボン玉が飛んできました。
黒猫は、ぴくりと耳を動かしました。
それは鳥でもなく、虫でもなく、
音も立てずに光る、不思議な丸いものでした。
シャボン玉は、空の色を少しだけ映しながら、
ゆっくりと黒猫の前を通り過ぎていきました。
黒猫は追いかけませんでした。
ただ、じっと見ていました。
触れたら消えてしまいそうなものを、
どう扱えばいいのか、知っているようでした。
二つ目のシャボン玉が飛んできました。
今度は、黒猫の鼻先の近くまで来て、
小さく揺れました。
黒猫はそっと顔を近づけました。
その丸い光の中には、
庭の草も、白い雲も、黒猫自身の顔も、
ほんの少しだけ映っていました。
まるで、小さな世界が浮かんでいるようでした。
けれど次の瞬間、
シャボン玉は音もなく消えました。
黒猫は少しだけ目を細めました。
消えてしまったものを探すように、
空を見上げました。
そこには、もう何もありません。
でも黒猫は、
さっきまでそこに光があったことを覚えていました。
形が残らなくても、
心に残るものはあるのかもしれません。
シャボン玉は、次々と空へ上がっていきました。
黒猫はその下で、
静かに座ったまま見送っていました。
追いかければ割れてしまう。
つかまえようとすれば消えてしまう。
だから、ただ見つめる。
それだけで十分なものも、
この世界にはあるのだと思います。
黒猫のまわりに、
いくつもの小さな光が浮かびました。
午後の庭は、
ほんの少しだけ夢の中のようでした。
そして黒猫は、
最後のシャボン玉が空に消えるまで、
まばたきも忘れて見つめていました。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
PR
コータのAmazonページへ
よろしければ、
のぞいてみてください
登録:
コメントの投稿 (Atom)

0 件のコメント:
コメントを投稿