体育館の扉を開けた瞬間、ひんやりとした空気が頬に触れた。
まだ誰もいない空間は、まるで時間が止まっているみたいに静かだった。
大きな窓から差し込む朝の光が、床にまっすぐな道を描いている。
その光の中に、一歩踏み出す。
キュッ、とバッシュの音が響いた。
それだけで、自分がここにいることを確かめるみたいだった。
ボールを軽くつく。
ドン、ドン、と規則的な音が体育館に広がる。
昨日はうまくいかなかった動きが、頭の中で何度も再生される。
「もう一回」
誰に言うでもなく、口の中で小さくつぶやく。
腰を落として、低くドリブル。
右、左、切り返し。
ほんの少しだけ、昨日よりスムーズに身体が動いた気がした。
そのまま一気に前へ踏み込む。
誰もいないはずなのに、目の前には見えない相手がいる気がする。
抜く。
そのイメージだけを頼りに、一歩強く踏み出した。
シュート。
放たれたボールは、朝の光の中をゆっくりと進んでいく。
時間が少しだけ伸びたような感覚。
――コンッ。
リングに当たって、わずかに跳ねる。
「……あ」
思わず声が漏れた、その次の瞬間。
シュッ、と静かな音を立てて、ボールはネットを通り抜けた。
彼はその場に立ったまま、少しだけ息を吐く。
誰も見ていない。
誰にも褒められない。
それでも、確かに今の一本は、自分の中に残る。
窓からの光は、少しずつ角度を変えていく。
外の世界が動き始めている証拠だった。
「もう一本」
今度は、さっきよりも少しだけ強く言った。
静かな体育館に、またドリブルの音が響き始める。
その繰り返しの先に、何があるのかはまだわからない。
でも、ここから始まっていることだけは、はっきりしていた。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
PR
よろしければ、
のぞいてみてください

0 件のコメント:
コメントを投稿