春の風がやわらかく吹く午後だった。
男の子は、公園のベンチに座って本を読んでいた。
ページをめくるたびに、木々の葉がさらさらと揺れていた。
そのときだった。
「ピ…ピ…」
小さな声が聞こえた。
男の子は顔を上げて、あたりを見回した。
そして足元の草むらの中に、小さなヒヨドリのひながいるのを見つけた。
羽はまだふわふわで、うまく飛べないらしい。
ひなは不安そうに口を開けて鳴いていた。
「大丈夫かな…」
男の子はそっと手を伸ばした。
その様子を見ていた姉が、後ろから声をかけた。
「待って。」
男の子は振り返った。
姉は少しだけ真面目な顔をしていた。
「野生の鳥はね、家につれて帰ったらだめなんだよ。」
「でも、このままだとかわいそうだよ。」
男の子は小さな声で言った。
姉はしゃがんで、ひなを見つめた。
「たぶんね、お母さんが近くで見ているよ。」
「人がいなくなったら、迎えに来るかもしれない。」
男の子は少し考えた。
そして、そっと手を引っ込めた。
「じゃあ…ここにいても大丈夫なんだね。」
「うん。遠くから見守ろう。」
二人は少し離れた場所のベンチに座った。
しばらくすると、どこからか大きなヒヨドリが飛んできて、近くの枝にとまった。
そして、ひなのそばへ降りていった。
男の子は小さく笑った。
「よかった。」
手の中の本は、まだ途中のページのままだった。
けれどその日、男の子の心には、本とは違う物語がひとつ増えたのだった。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
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