2026年3月16日月曜日
男の子とヒヨドリのひな
春の風がやわらかく吹く午後だった。
男の子は、公園のベンチに座って本を読んでいた。
ページをめくるたびに、木々の葉がさらさらと揺れていた。
そのときだった。
「ピ…ピ…」
小さな声が聞こえた。
男の子は顔を上げて、あたりを見回した。
そして足元の草むらの中に、小さなヒヨドリのひながいるのを見つけた。
羽はまだふわふわで、うまく飛べないらしい。
ひなは不安そうに口を開けて鳴いていた。
「大丈夫かな…」
男の子はそっと手を伸ばした。
その様子を見ていた姉が、後ろから声をかけた。
「待って。」
男の子は振り返った。
姉は少しだけ真面目な顔をしていた。
「野生の鳥はね、家につれて帰ったらだめなんだよ。」
「でも、このままだとかわいそうだよ。」
男の子は小さな声で言った。
姉はしゃがんで、ひなを見つめた。
「たぶんね、お母さんが近くで見ているよ。」
「人がいなくなったら、迎えに来るかもしれない。」
男の子は少し考えた。
そして、そっと手を引っ込めた。
「じゃあ…ここにいても大丈夫なんだね。」
「うん。遠くから見守ろう。」
二人は少し離れた場所のベンチに座った。
しばらくすると、どこからか大きなヒヨドリが飛んできて、近くの枝にとまった。
そして、ひなのそばへ降りていった。
男の子は小さく笑った。
「よかった。」
手の中の本は、まだ途中のページのままだった。
けれどその日、男の子の心には、本とは違う物語がひとつ増えたのだった。
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