2026年3月10日火曜日

男の子とカッターナイフ

道徳の時間、教室はいつも通りの静けさに包まれていた。
しかし、その静けさを破るように、男の子は机の引き出しからカッターナイフを取り出していた。
理由は自分でもよく分からない。なんとなく、ちょっと触ってみたくなったのだ。

「危ないぞ」と、隣に座る友達が小声で言った。
でも男の子は笑って、軽く手元で刃を動かす。
その刹那、手が滑った。
「痛っ!」
指先に鋭い痛みが走り、見ると小さな赤い線が走っていた。
血がじわりとにじみ出る。教室中の空気が一瞬変わった。

先生に報告すると、すぐに保健室に案内された。
椅子に座り、冷たいタオルで血を押さえながら、男の子は自分の軽率さを思わず振り返る。
「ちょっと触っただけなのに…」心の中で小さく呟いた。

保健室の先生はすぐに傷の状態を確認し、表情を少し曇らせた。
「これは結構深いね。病院で縫ってもらおう」
男の子はうなずき、親と一緒に病院へ向かった。

診察室の明かりの下で、消毒と麻酔、そして慎重に縫われる傷口。
針と糸の感触に、少し目を見開いたものの、痛みは思ったほどではなかった。
看護師さんが最後に優しく「もう大丈夫」と言ってくれた瞬間、男の子はホッと胸を撫で下ろす。

帰り道、男の子は自分の指先をそっと触った。
赤く腫れた部分は痛々しいけれど、心の中では小さな教訓が刻まれていた。
「軽い好奇心でも、道具には気をつけなきゃ」

教室での短い事故は、男の子にとって痛くて、ちょっと怖くて、でも確かに忘れられない経験となった。
日常の中に潜む小さな油断が、思わぬ学びになる――そんなことを、男の子はそっと指先を見つめながら感じていた。

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