2026年3月18日水曜日

男の子と小さなカメの話


ある日の午後、男の子はいつものように公園の池にかかる少し長い橋を渡っていた。
水面は静かで、風もほとんどなく、時間がゆっくり流れているようだった。

橋の真ん中あたりまで来たとき、ふと水の中に小さな影が動くのが見えた。
目を凝らしてみると、それは一匹の小さなカメだった。

カメはゆっくりと、けれど一生懸命に水をかきながら泳いでいる。
そして不思議なことに、男の子が歩くのに合わせるように、橋の下をついてくるのだった。

「……ついてきてるのかな?」

男の子は少し歩いて、立ち止まってみた。
するとカメも、水の中でぴたりと動きを止める。

もう一度歩き出すと、また水面が小さく揺れて、カメが後を追いかけてくる。

それを見て、男の子はなんだか胸の奥がふわっと温かくなった。
理由はよくわからないけれど、ただ嬉しかった。

誰かに必要とされているわけでもないし、特別なことが起きたわけでもない。
それでも、小さなカメが自分を目で追って、必死に泳いでくる姿が、たまらなく愛おしかった。

橋の終わりが近づいてくる。
このまま渡りきってしまえば、きっとカメはもうついてこられない。

男の子は少しだけ歩くのをゆっくりにした。
ほんの少しだけ、時間を伸ばすように。

カメは変わらず、一生懸命に泳いでいる。
水の中の小さな命が、こんなにも懸命に動いていることに、男の子は静かに心を打たれていた。

やがて橋を渡りきると、カメは水の中でくるりと向きを変え、元の方へと泳いでいった。

男の子はしばらくその場に立ち止まり、水面を見つめていた。
もうカメの姿は見えなかったけれど、不思議と寂しさはなかった。

ただ、胸の中に小さな灯りのようなものが残っていた。

それはきっと、誰にも気づかれないくらいささやかな出来事だったけれど、
男の子にとっては、確かに大切な一日になったのだった。

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