2026年11月1日日曜日

癒される山茶花の咲く冬のはじまりの庭と花びらを見つめる三毛猫

癒される山茶花の咲く冬のはじまりの庭と花びらを見つめる三毛猫

 

第一章 朝の庭

十一月の朝は、音が少ない。

雨戸を開けると、冷たい空気が縁側からすっと入ってきた。吐く息はまだ白くならないけれど、頬に触れる風は、もう秋のものではなかった。

庭の隅の山茶花が、昨日より少しだけ花を増やしている。

濃い緑の葉の間に、桃色の花がぽつり、ぽつりと開いていた。派手に咲くのではなく、冬のはじまりをそっと知らせるような咲き方だった。

「ああ、今年も咲いたんやなあ」

思わず声に出して、湯のみを両手で包んだ。湯気がゆっくり立ちのぼって、朝の光の中に溶けていく。

第二章 縁側の三毛猫

足元で、小さな鈴が鳴った。

三毛のミケが、いつの間にか縁側に座っていた。白と茶と黒のまだら模様の背中が、朝日を受けてほんのり温かそうに見える。

ミケは私の顔を一度だけ見て、すぐに庭へ視線を戻した。

しっぽの先だけが、ゆらり、ゆらりと動いている。何かを見つけたときの、あの静かな動きだ。

視線の先を追うと、山茶花の根元に、一枚の花びらが落ちていた。

第三章 花びらを見つめる時間

風が吹いたわけでもないのに、花びらは小さく揺れた。

ミケは前足をそろえて、じっと動かない。耳だけが、ぴくりと向きを変える。

追いかけるでもなく、触れるでもなく、ただ見つめている。

その横顔を見ていたら、ふと気づいた。

私は最近、こんなふうに何かをただ見つめることが、あっただろうか。

スマホの画面を見て、時計を見て、予定を見て。目はいつも忙しくて、心はその後ろをついていくだけだった。

ミケの時間は、まるで違う流れ方をしている。花びら一枚に、朝の全部を使っているようだった。

第四章 冬のはじまりの音

しばらくして、風がひと筋、庭を通り抜けた。

山茶花の枝が小さく揺れて、花びらがまた一枚、ひらりと落ちた。

地面に着くとき、音はしなかった。それでも、その静けさがはっきりと耳に残った。

ミケが立ち上がり、ゆっくり庭へ降りていく。肉球が冷たい土を踏むたびに、小さな足跡が並んでいく。

花びらのそばまで来ると、鼻先をそっと近づけて、においを確かめた。それから、満足したように顔を上げて、私のほうを振り返った。

「どうや、ええ匂いか?」

返事の代わりに、ミケは短く「にゃ」と鳴いた。

第五章 ひだまりの午前

日が高くなると、縁側にやわらかな日だまりができた。

ミケは庭から戻ってきて、その真ん中にくるりと丸くなった。私も隣に腰を下ろして、膝掛けを広げる。

山茶花の花は、光を受けて、朝よりも少し明るい色に見えた。

お茶はもう冷めかけていたけれど、不思議とそれがちょうどよかった。急がなくていい朝は、冷めたお茶まで、おいしく感じさせてくれる。

ミケの寝息が、ゆっくりと聞こえてくる。

庭には、また花びらが一枚、落ちた。

終章 冬のはじまりに

冬は、寒さだけの季節ではないと思う。

山茶花が咲いて、猫が日だまりで丸くなって、湯のみのお茶がぬくもりを伝えてくれる。そんな小さなことが、ひとつずつ心を温めてくれる季節でもある。

何も特別なことは起きなかった。

けれど、花びらを見つめる三毛猫の横顔を眺めていた時間は、この冬のはじまりの、いちばん静かで、いちばん豊かな時間だった。

あなたの今日にも、ほんの少しだけ立ち止まって、何かをただ見つめる時間が訪れますように。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます

PR
コータのAmazonページへ


コータのAIイラスト、Xページへ


コータのユーチューブページへ

よろしければ、
のぞいてみてください


0 件のコメント:

コメントを投稿