ある春の日、静かな町の一角に、小さなうさぎが住んでいた。
そのうさぎは、何も特別なことができるわけではない。
ただ、毎日、静かな草原を跳ね回り、
時折、町の端の小道に足を運ぶくらいだ。
町の中には、ひとりの中年の男性、田村さんが住んでいた。
毎日、仕事に追われ、夕暮れには家に帰る。
特に何か大きな夢を持っているわけでもないが、
日々の平穏な暮らしが心地よかった。
そんな田村さんは、ある日、ふと町の外れの草原でうさぎを見かける。
そのうさぎは、田村さんに気づくと、じっと見つめてくる。
田村さんは、驚きながらも、足を止めてそのうさぎを見つめた。
「こんなところにうさぎがいるのか…」
田村さんはそう思いながら、少しだけ心が安らぐのを感じた。
次の日、田村さんはまたその場所を通りかかった。
すると、うさぎは待っていたかのように、再び草むらから顔を出した。
田村さんは立ち止まり、静かにうさぎを見つめる。
その目は、どこか優しく、田村さんを温かく包み込むようだった。
何も言わず、ただ見つめ合う時間。
そして、田村さんは少しだけ深呼吸をして、
「また明日な」とつぶやきながら、ゆっくりと歩き出した。
日々の忙しさに追われていた田村さんだが、
そのうさぎとの出会いが、何とも言えない心の余裕を与えてくれた。
毎日の暮らしが少しずつ、優しく、穏やかに感じられるようになった。
それからというもの、田村さんは毎日、その草原を通りかかり、
うさぎと目を合わせることが習慣になった。
言葉はなくても、その静かな時間が、
田村さんにとっては何よりの癒しとなった。
そして、ある晩、ふと田村さんは気づいた。
「あのうさぎ、きっと私があの日から気づいてくれるのを待っていたんだろうな」と。
それからは、町を歩くたびに、心の中でそのうさぎに感謝の気持ちを送るようになった。
うさぎは、何も言わないけれど、
静かに寄り添ってくれる。
その小さな存在が、田村さんにとって、
何より大きな慰めとなっていたのだ。
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