2026年2月11日水曜日

ラッコの話

海辺の町に住む村上さんは、毎朝の散歩を日課にしていた。
波の音を聞きながらゆっくり歩く時間は、長年の仕事で疲れた心を癒す、ささやかな楽しみだった。

ある日の朝、砂浜の近くの浅瀬で、ちょっと不思議な光景を見つけた。
小さな体が浮かび、手で貝を持って器用に割って食べている。
それはラッコだった。

ラッコは水面に浮かびながら、手足を器用に動かして貝を割り、中身を口に運ぶ。
その仕草は、見ているだけでほっと笑みがこぼれる。
村上さんはそっと座り込み、ラッコを眺める。
「小さな命でも、こんなに一生懸命生きているんだな」と、心が温かくなった。

ラッコは時折、仰向けになって浮かび、手を胸の上で組むように休む。
その無防備な姿に、村上さんの肩の力もふっと抜ける。
長年の疲れや、考えすぎていた日常のことが、少しずつ遠くに流れていくようだった。

やがて、ラッコは小さな波に揺られながら、ゆっくりと泳ぎ去る。
村上さんは立ち上がり、砂浜に残る波のきらめきを見つめる。
小さな生き物の仕草ひとつで、これほど心が穏やかになるものか、と感心する。

その日から、村上さんは毎朝、浅瀬を覗くのを楽しみにするようになった。
ラッコの小さな冒険を見ているだけで、
日々の疲れや悩みも少しずつ軽くなり、心に穏やかな風が吹くのを感じるのだ。

ラッコの愛らしい仕草は、言葉も力も持たない。
でもその存在だけで、村上さんの心に静かな癒しを届けてくれる。
海と小さな命の優しさが、日常の中に、そっと幸せを運んでくれるのだった。

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