2026年10月24日土曜日

癒される秋のホトトギスの斑点模様と木陰でまどろむマンチカンという猫

癒される秋のホトトギスの斑点模様と木陰でまどろむマンチカンという猫

 その庭の奥には、古い柿の木が一本立っている。

九月の終わりから、その根もとの木陰に、小さな花が咲きはじめる。ホトトギスだ。白い花びらに、紫の斑点がぽつぽつと散っている。誰かが小さな筆で、ためらいながら点を打っていったような模様である。

その日の午後、私は縁側に腰かけて、温かい麦茶を飲んでいた。

空は高く、風は少しだけ冷たい。夏のあいだ庭をにぎやかにしていた蝉の声は、もうどこにもなかった。聞こえるのは、柿の葉が擦れ合う、さらさらという音だけだ。

ふと庭の奥に目をやると、ホトトギスの隣に、茶色のかたまりが丸くなっていた。

マンチカンのミルだ。

ミルは短い足を体の下にきちんとたたみ込み、前足を胸のあたりに重ねて、目を細めている。木漏れ日が、ちょうどミルの背中の真ん中だけを照らしていた。毛の一本一本が、やわらかい金色に光っている。

ときどき耳がぴくりと動く。風の音を聞いているのか、夢の中で何かを追いかけているのか。

その鼻先で、ホトトギスの花が静かに揺れていた。

ホトトギスという名前は、鳥のホトトギスの胸にある模様に、花の斑点が似ているところからついたのだという。

そう思って見ると、たしかに似ている気がしてくる。けれど私には、花の斑点が、ミルの背中の縞に重なって見えた。花びらの紫の点と、ミルの毛並みの濃淡。どちらも、誰かが丁寧に描いたとしか思えない模様だった。

自然というのは、細かいところほど、ずいぶんと手間をかけるものだ。

ミルが、ゆっくりと目を開けた。

琥珀色の瞳が、こちらを見る。それから、何も言わずに、ふわあ、と大きなあくびをした。小さな牙がのぞき、ピンク色の舌がくるりと丸まる。

あくびが終わると、ミルはまた目を閉じた。まるで「用事はそれだけ?」とでも言うように。

私は思わず笑ってしまった。

秋の午後は、不思議と時間の流れがゆるやかになる。

急ぎの用事も、返しそびれたメールも、少しだけ遠くへ行ってしまう。かわりに、風の温度や、葉の匂いや、猫の寝息のようなものが、ぐっと近くに寄ってくる。

私は麦茶を飲み干し、湯のみをそっと縁側に置いた。音を立てないように。ミルの眠りを、邪魔したくなかったからだ。

柿の葉が一枚、ひらりと落ちてきた。

ホトトギスの花の上をかすめて、ミルの背中にふわりと乗る。ミルは気づかない。葉っぱを背負ったまま、すうすうと眠りつづけている。

木漏れ日が、少しずつ傾いていく。

紫の斑点を散らした花も、まどろむ小さな猫も、やがて夕方の色に染まっていくのだろう。それまでのあいだ、私はもう少しだけ、この庭を眺めていようと思った。

秋の木陰には、特別なことは何も起こらない。

けれど、何も起こらないということが、こんなにもやさしいのだと、花と猫が教えてくれる午後だった。

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