2026年10月20日火曜日

癒される秋雨あがりの虹とマンチカンという猫

癒される秋雨あがりの虹とマンチカンという猫

 朝からずっと降っていた雨が、午後になってふっと止んだ。

屋根を叩いていた音が消えると、家の中が急に広くなったように感じる。静けさというのは、音がなくなることではなくて、さっきまであった音の余韻を聴くことなのかもしれない。そんなことを思いながら、窓辺のカーテンを少しだけ開けた。

「ふみゃ」

足元で小さな声がした。マンチカンのもちが、短い脚でちょこちょことやってきて、わたしの隣にぴたりと座る。胴が長くて脚が短い、あの愛らしいシルエット。雨の日のもちはずっと布団の上で丸くなっていたのに、雨音が止んだのを、ちゃんと耳で感じ取っていたらしい。

窓を細く開けると、ひんやりとした空気が流れ込んできた。濡れた土の匂い。どこかの庭の金木犀の、雨で少しだけ薄まった甘い香り。秋の雨あがりにしかない、澄んだ匂いだった。

もちは窓枠に前足をかけて、背伸びをする。短い脚で精いっぱい伸びあがる姿が、いつ見ても健気で、思わず笑ってしまう。

「どう? 外、気になる?」

返事の代わりに、しっぽがゆらりと揺れた。

そのとき、雲の切れ間から光が差した。

灰色だった空の端がほどけて、薄いオレンジ色がじんわりと広がっていく。屋根の瓦も、電線も、濡れた葉っぱも、一斉に小さく光りはじめた。雨粒の一つひとつが、小さなランプみたいに灯っている。

「あ……」

思わず声が出た。

空の向こうに、淡い虹がかかっていた。

くっきりとした夏の虹とは違う。秋の虹は、どこか遠慮がちだ。青と緑と、ほんの少しの紫が、薄い絹のように空に溶けている。気を抜くと見失ってしまいそうなのに、その儚さがかえって胸にしみた。

もちは、じっと虹の方を見ていた。まんまるの目に、空の色がうつっている。わかっているのか、いないのか。ただ静かに、同じ空を見上げている。

わたしは、窓辺に腰かけて、もちの背中にそっと手を置いた。

あたたかい。

毛並みのやわらかさと、小さな呼吸のリズム。ゆっくり上下する背中を感じていると、さっきまで頭のなかを占めていたあれこれが、ふわりとほどけていくようだった。

しなければいけないこと。うまくいかなかったこと。明日の予定。

そのどれもが、虹の前では急に小さく見える。

雨があがったからといって、何かが解決したわけじゃない。でも、雨のあとには空が澄む。それだけで、少し前を向ける気がした。

もちが、ごろんとわたしの膝に頭をのせてくる。ごろごろ、という喉の音が、いつの間にか部屋じゅうに満ちていた。

窓の外では、虹が少しずつ薄れていく。名残惜しくて、わたしは最後の色が消えるまで、空を見ていた。

やがて空は、うっすらとした茜色に変わった。

秋の夕方は、足早に近づいてくる。それでも今日は、焦らなくていいと思えた。

「ありがとうね」

もちに言ったのか、虹に言ったのか、自分でもわからない。けれど、膝の上のぬくもりが、きっとちゃんと受けとってくれたのだと思う。

雨のあとの虹は、いつだって短い。

だからこそ、猫と並んで見上げたこの数分が、静かに心に残っていく。

そんな、秋雨あがりの午後のことだった。

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