2026年10月25日日曜日

癒される秋のどんぐりと落ち葉の小道とそっと鼻を近づけるメインクーンという猫

癒される秋のどんぐりと落ち葉の小道とそっと鼻を近づけるメインクーンという猫

 その小道は、町外れの雑木林のふちにひっそりと続いていた。

十月の終わりの午後、わたしは何の用事もなく歩いていた。歩くこと自体が用事のような日だった。足もとでは、乾いた落ち葉がかさり、かさりと小さな音を立てる。赤、橙、くすんだ黄色。踏むたびに、秋が少しずつ砕けていく。

道の両側には、どんぐりがころころと転がっていた。帽子をかぶったままのもの、帽子を落としてつるりとしたもの。拾い上げてみると、ひんやりと冷たく、手のひらにちょうど収まった。子どもの頃はポケットがふくらむほど集めたのに、いつからか拾わなくなっていた。理由は思い出せない。大人になるというのは、そういう小さなことを一つずつ置いてくることなのかもしれない。

ふと顔を上げると、小道の先に、大きな影があった。

最初は、落ち葉の山かと思った。茶色と灰色がまじった長い毛が、木漏れ日を受けて、やわらかく波打っている。耳の先には、ふさりとした飾り毛。堂々とした体つきのメインクーンが、道のまんなかにすわっていた。

猫はこちらを見た。琥珀色の目が、ゆっくりとまばたきをする。逃げるでもなく、近づくでもなく、ただ「来たのか」とでも言うように、わたしを眺めていた。

わたしは立ち止まった。しゃがんで、手の中のどんぐりをそっと地面に置く。急に動いたら、この静けさが壊れてしまう気がした。

すると猫は、ゆっくりと立ち上がった。大きな体なのに、足音がしない。落ち葉の上を、まるで雲でも歩くように、すう、と近づいてくる。

そして、置いたばかりのどんぐりに、そっと鼻を近づけた。

ひくひく、と鼻先が動く。長いひげが、秋の光にきらりと揺れる。土の匂い、木の匂い、冷たい空気の匂い。猫はその一粒の中に、森ぜんぶを嗅ぎ取っているようだった。

わたしは息をひそめて、その横顔を見つめていた。

どれくらいそうしていただろう。やがて猫は顔を上げ、今度はわたしの指先に、同じようにそっと鼻を寄せた。しめった鼻先が、ほんの一瞬だけ触れる。くすぐったくて、あたたかかった。

ああ、と思った。

わたしはずっと、何かを探して歩いていたのかもしれない。大きな出来事でも、特別な景色でもなく、ただ誰かが静かに鼻を近づけてくれるような、そんな時間を。

猫は満足したのか、くるりと向きを変え、小道の奥へと歩き出した。ふさふさの尻尾が、ゆらりと立つ。途中で一度だけ振り返り、また琥珀色の目でわたしを見た。ついてこなくてもいいよ、と言われた気がして、わたしはただ手を振った。

猫の姿は、落ち葉の色にとけるように、木立のむこうへ消えていった。

あとには、風の音と、かさりと鳴る葉の音。わたしは置いたどんぐりを拾い上げ、そっとポケットにしまった。

何年ぶりだろう。ポケットが、ほんの少し重い。

帰り道、落ち葉を踏む音が、行きよりもやさしく聞こえた。

秋の小道は、こうして人の心をほどいてくれる。どんぐりの冷たさも、落ち葉の音も、猫の鼻先のぬくもりも、ぜんぶ、ただそこにあっただけなのに。

もし今日、少しだけ心が疲れているなら、近所の小道を歩いてみてほしい。足もとに、小さな秋が転がっているはずだから。

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