2026年10月18日日曜日

癒される秋のノギクが揺れる海辺の道とマンチカンという猫

癒される秋のノギクが揺れる海辺の道とマンチカンという猫

 

はじめに

秋の海は、夏とはまるで違う顔をしている。

はしゃぐような光は影をひそめて、波の音もどこか低く、やわらかくなる。そんな季節の海辺の道を、ゆっくり歩いてみたくなった日のことを、少し物語のように書いてみようと思う。

一、潮の匂いがする坂道

駅から続く細い坂を下りきると、ふいに視界がひらけた。

空と海の境目が、うすい水色のなかに溶けている。風には潮の匂いがほんのり混じっていて、肌に触れる空気は、夏の名残をすっかり手放した涼しさだった。

海沿いの道は、舗装の端がところどころ砂に埋もれている。その道に沿って、白っぽい小さな花が、ずっと向こうまで続いていた。

ノギクだった。

背の低い花たちは、風が吹くたびに一斉に首をかしげる。誰かに「そうだね」とうなずいているように、こくり、こくりと揺れていた。

二、揺れるものを眺める時間

私は道の途中で足を止めて、しばらくその花を眺めていた。

派手な花ではない。庭に植えられて褒められることも、花束になることも、きっと少ない。けれど、海風に吹かれながら、折れもせず、ただしなやかに揺れている姿には、不思議な落ち着きがあった。

花びらは淡い紫がかった白で、中心の黄色だけが、小さな灯りのようにともっている。

風が強くなると、花はぐっと身を伏せる。風がやむと、何事もなかったように、また顔を上げる。

その繰り返しを見ているうちに、胸の奥でこわばっていたものが、少しずつほどけていくのがわかった。

三、ガードレールの上の小さな影

ふと、視線の先で何かが動いた。

道の脇の低い石垣の上に、丸い背中が見える。近づいてみると、一匹の猫が、日向にちょこんと座っていた。

マンチカンだった。

短い脚をきちんとそろえて、まるでそこが自分の指定席であるかのように、堂々と海のほうを向いている。毛はやわらかそうなクリーム色で、背中にうっすらと茶色の模様がのぞいていた。

私が一歩近づくと、猫は首だけをこちらに向けた。

丸い目が、じっと私を見る。逃げるでもなく、慌てるでもなく、ただ静かに「どうぞ」と言っているようだった。

四、並んで海を見る

私は少し離れた場所に腰を下ろした。

猫はしばらく私を見ていたけれど、やがて興味を失ったように、また海へ顔を戻した。

そのあいだにも、ノギクは風に揺れつづけている。波が岩に当たる音が、遠くから一定のリズムで届く。猫の耳が、ときどきぴくりと動いて、風の音を拾っているのがわかった。

何も話さなくていい時間だった。

誰かに何かを説明する必要も、うまく笑う必要もない。ただ、海と花と猫と、自分とが、同じ空気のなかにいる。それだけのことが、こんなにも満ち足りているなんて。

五、短い脚で、花のあいだへ

しばらくして、猫がすっと石垣から降りた。

短い脚でちょこちょこと歩きだす。その先には、ノギクの群れがあった。

猫は花の前で立ち止まり、鼻先をそっと近づけた。花がふわりと揺れる。猫の耳も、つられて揺れる。

白い花と、クリーム色の毛並みが、秋の光のなかでやさしく重なった。

私は思わず、息をひそめた。

この景色を写真に撮ろうかとも思ったけれど、手を動かすのをやめた。ただ目に焼きつけておくほうが、きっと長く残る気がしたから。

六、帰り道のこと

日が少しずつ傾いて、海の色が深くなってきた。

私が立ち上がると、猫は振り返って、一度だけ短く鳴いた。見送ってくれているのか、ただの気まぐれなのか。どちらでもよかった。

来た道を戻りながら、何度か振り返った。

そのたびに、ノギクは変わらず風に揺れていて、小さな猫の影は、少しずつ遠くなっていった。

坂の上で最後にもう一度だけ海を見た。空はうすい金色に染まりはじめている。

おわりに

忙しい日々のなかで、「癒される」という言葉は、どこか遠いものに感じることがある。

でも本当は、特別な場所に行かなくても、特別なことをしなくても、癒しはすぐそばにあるのかもしれない。

風に揺れる小さな花を、少し長めに眺めてみること。
海の音に耳をすませてみること。
そして、たまたま出会った猫の背中に、ほんの少し心をあずけてみること。

それだけで、秋の一日は、やさしい物語になる。

もしあなたが、どこかの海辺の道でノギクの揺れる景色に出会ったら、ぜひ足を止めてみてください。そこに小さな猫が座っていたら、きっとそれは、その日いちばんの贈りものです。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます

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