2026年10月26日月曜日

癒される秋の夜のしずかな雨音とあたたかい毛布に潜りこむマンチカンという猫

癒される秋の夜のしずかな雨音とあたたかい毛布に潜りこむマンチカンという猫

 日が落ちるのが、いつのまにか早くなった。

夕方に降りはじめた雨は、夜になってもやまなかった。強くも弱くもない、ちょうどいい降り方だった。窓の外では、屋根をたたく小さな音が、途切れずにやさしく重なっている。

私は部屋のあかりをひとつだけ残して、ソファに腰をおろした。テーブルには、湯気のたつ紅茶。膝の上には、まだ開いていない本。

「ぽつ、ぽつ、ぽつ」

雨音は、数えようとすると数えられない。それがなんだか心地よくて、私は本を開くのをやめて、耳だけを窓のほうへ預けた。

そのときだった。

床のほうから、とん、とん、と小さな足音が近づいてきた。短い脚を一生懸命に動かして、ふかふかの尻尾をゆらしながら歩いてくる。うちのマンチカンの、もなかだ。

もなかは私の足もとで立ち止まり、じっと私を見上げた。まるい目に、ランプの光がひとつずつ入っている。

「どうしたの」

声をかけると、もなかは小さく「にゃ」とだけ答えた。それから、ソファの端にたたんであった毛布のほうへ、とことこと向かっていった。

その毛布は、先週しまい込んでいた冬用を、思いきって出してきたものだった。まだ少しだけ、押し入れの匂いが残っている。

もなかは毛布の端に鼻を近づけて、くん、と匂いをたしかめた。それから、まるでそこに入口があるかのように、迷いなく頭からもぐりこんでいった。

毛布が、もこもこと動く。右へ、左へ。ちょうどいい場所を探して、くるりと回っているのがわかる。

やがて動きが止まった。

毛布のふくらみは、もなかのかたちにまあるくなって、ゆっくり上下しはじめた。

私はそっと、毛布の端をめくってみた。

もなかは、顔だけを少し出して、目を細めていた。鼻先がひくひくと動いて、すぐに力が抜けていく。あたたかさに、まぶたが負けそうになっているのがわかった。

「そこ、いい場所?」

返事のかわりに、のどの奥から、ごろごろ、という低い音がきこえてきた。

雨音と、ごろごろ。

ふたつの音が重なると、部屋のなかの空気が、少しだけやわらかくなった気がした。

外の世界は、きっと冷たくて、濡れていて、暗い。でも、この毛布のなかだけは、ちがう季節みたいにあたたかい。

私は紅茶をひと口のんで、毛布の上から、もなかの背中あたりをそっと撫でた。小さな体のぬくもりが、手のひらにじんわりと伝わってくる。

考えてみれば、ひとりで過ごす秋の夜は、少しだけ寂しいものだ。日が短くなると、心のなかにも影ができるような気がする。

けれど、雨の音を聞きながら、毛布に潜りこんだ猫の寝息をそばに感じていると、その影は不思議とやわらかくほどけていく。

何かをしなくても、いい。
誰かに会わなくても、いい。
ただ、雨の音を聞いて、あたたかいものがそばにあれば、それで足りる夜もある。

窓の外では、雨がまだ降りつづいている。街灯のあかりが、濡れたガラスに丸くにじんで、ゆらゆらと揺れていた。

もなかの寝息が、ゆっくりと深くなる。毛布のふくらみが、規則正しく上がって、下がる。

私はいつのまにか、本を開くことも忘れていた。かわりに、毛布のとなりに身を沈めて、ランプの光と雨の音のなかに、ゆっくりと溶けていった。

しずかな雨音。
あたたかい毛布。
その奥で眠る、小さな命のぬくもり。

秋の夜が、こんなにもやさしいものだったなんて。

明日の朝になれば、雨はあがっているかもしれない。でも今夜だけは、このままでいたい。

毛布のなかで、もなかが、ふにゃ、と小さく寝言をこぼした。私は思わず笑って、そっとランプのあかりを落とした。

雨音だけが、部屋にやさしく残っていた。

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