カーテンの隙間から、細い光が一本だけ床に伸びていた。
まだ六時を少し過ぎたばかりで、家の中はしんとしている。冷蔵庫の小さなうなり声と、遠くを走る新聞配達のバイクの音だけが、朝の輪郭をなぞっていた。
私はそっとカーテンを開けた。
窓ガラスに、淡い金色の光がやわらかく広がる。昨夜の冷たさがまだ少し残る空気の向こうで、屋根の端が白く縁どられていた。窓辺に置いたマグカップから、湯気がゆらゆらと立ちのぼっていく。
その窓辺の一番日当たりのいい場所に、小さな座布団がある。そこが、うちのマンチカンの定位置だ。
名前を呼ぶと、ソファの下から、とてとてと足音がした。短い脚で、それでも一生懸命に床を踏んでくる。ふかふかの胴体がゆれて、尻尾がゆっくり左右にしなる。
窓辺に着くと、彼女は座布団の上でちょこんと座り、光の中でまぶしそうに目を細めた。
それから、ゆっくりと前足を前に伸ばした。
背中がなだらかに沈んで、おしりがすうっと持ち上がる。短い後ろ足がぷるぷると小さく震えて、指の先までぴんと開いた爪が、朝の光を受けて透けるように見えた。
伸びは、思っていたより長かった。
急ぐ理由なんて、この子にはひとつもないのだ。朝というものを、体のすみずみまで、ていねいに受け取っている。そんなふうに見えた。
そして、伸びのいちばん終わりに、ふわあっと、大きなあくびが出た。
小さな口がめいっぱい開いて、ピンク色の舌がくるりと巻く。細い牙がちらりとのぞいて、ひげが後ろに引かれる。あくびのあと、ぱちぱちとまばたきをして、何事もなかったような顔で、私のほうを見上げた。
「おはよう」
そう言うと、彼女は「みゃ」とも「んん」ともつかない、小さな声を返してくれた。
その声があまりにもやわらかくて、私は思わず笑ってしまった。胸の奥に張りついていた、昨日までの細々としたこわばりが、湯気といっしょにほどけていくのがわかった。
窓の外では、電線にとまった雀が二羽、せわしなく顔を見合わせている。向かいの家の屋根の上を、薄い雲がひとつ、ゆっくり横切っていく。
彼女は座布団に丸くなりかけて、またひとつ、小さくあくびをした。
さっき伸びをしたばかりなのに、もう眠そうだ。それでも、ときどき片目だけを開けて、窓の外の雀を目で追う。その仕草のひとつひとつが、まるで朝のために用意された、小さな短編のページをめくっているようだった。
私はマグカップを両手で包んで、窓辺の床に腰を下ろした。
光は少しずつ高くなって、座布団の上の毛並みが、あたたかな蜂蜜色に染まっていく。耳の先だけが、透きとおるように明るい。
何も起こらない朝だった。
けれど、伸びをして、あくびをして、また目を細める。それだけのことが、こんなにも静かで、こんなにも満ちたりた時間になるのだと、私はこの小さな猫に教えてもらった。
窓辺の光が、ゆっくりと床を渡っていく。
マンチカンの寝息が、ほんの少し、深くなった。
一日はまだ、はじまったばかりだ。
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